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アルフレッド王編・夢の国の果て 11

 そうして月日が経ち、私は『新ブルボア王国』を立ち上げることに成功した。

 

 いざとなったら切り捨てても良いと考えていたエル王子は、予想を遥かに上回る優秀さであった。

 流石に大国の王子として教育されてきただけはある。

 ブルボア王国設立のために、たいした貢献を果たしてくれた。

 

 もちろん、国を立ち上げるまでには様々な困難があった。

 それをエル王子たちと共にくぐり抜け、今は全領土を奪還し、試行錯誤しながら治めている。


 しかし、ふとしたときによぎるのは過去の幻影。


 領土を取り戻しても、もう……この地には父母も弟たちもいない。

 正妃様もいない。


 名は残したものの、全然別の国になってしまった。


 あの時『国のために何も出来なかった』私が残るのみだ。



 エルは出世し親衛隊長となったが正体はいまだアレス帝国にバレてはいない。

 髪は初期から染めさせ、年齢は偽装し、写真集を出すときに出身地や身分なども全部こちらの都合の良いように改変させておいた。


 そして『ブラコンを極めた美形の兄』『美しき女戦士アリシアのいとこ』として華やかに売り出したことが功を奏したようだ。


 下手に隠すより、この方が良いのだ。


 アレス王国より遠く離れた、地味な地方勢力である我が領地。

 探索隊はここにもやって来たが、予想通り、彼らは末端構成員であった。


 年少の王子がひっそりと隠れ住めそうなところをしらみつぶしに探した後、次の任地にさっさと移っていった。


 そうしてまた時はたち、エルは今、休職して弟リオンと二人、地下神殿で穏やかに暮らしている。


 国が成立して間もない今は人手が足りない。

 エルはブラコン過ぎて一見そうは見えないが、重要な仕事を任せても素早く正確にこなす。


 リオンは幼い外見に反して桁外れの戦闘力を持っている。


 遊ばせておくのは資源の無駄使い。そう考えた部下たちから相当の反対があったが、私は二人を休ませてやりたかった。


 ……特にリオンを。


 ただし、リオンが何者なのかはいまだにわからない。


 初期には『姉』だと名乗っていたアリシアの方の素性は調べがついたが、エルたちとはエルシオンが滅んだ後に出会っただけらしい。


 影で調べたことは本人たちには明かしていないが、アリシアは某国公爵の奴隷侍女として凄惨な人生を送ってきたとのこと。

 異様に肝が据わっているうえ有能なのは、どうやらそのせいのようだ。


 でもリオンの素性だけは、どの線から調べても欠片さえ出てこない。

 あれだけの容姿なら、さぞや目立つ存在であったろうに。


 正体は不明だったが、二人は確かに兄弟だった。


 お互いを強く想い合い、幼い頃は結婚の約束までしていたという話だから、本当の兄弟ではなくとも近しい存在であることだけは間違いないだろう。


 そんなリオンを見て思い出すのは、亡くなった我が弟。

 かばってやる事も想ってやることも出来ず、恐怖と苦痛のうちにさらし者となって死んでいったあの弟のことだ。


 リオンは弟とは違う方面ではあるが、かなり抜けたところがある。

 その幼さはどうしても弟を思い起こさせる。


 しかしながら彼は、見た目とはかけ離れた戦い方をするため皆に恐れられ忌まれていた。


 でも私は、リオンが本当は心優しいことを知っている。


『優しさ』というのは『争わない』と言うことと同義であるだろうか?


 いや、違う。


 腕のある剣士だと皆に知られていたとしても、あの幼さであれば『リオンが戦場に行かぬこと』に誰もが納得しただろう。

 安全な城中から兄の武運を祈り、綺麗に過ごすことも出来たはず。


 なのに、あの子はそうしなかった。


 常に最前線に出て、どんな危険も厭わずに戦った。

 兄の安寧を勝ち取るために。


 私は『優しさ』というものは、こういう事を言うのだと思う。


 危険の及ばぬところで優しげに微笑んでさえいれば、彼は誰にも悪くは言われなかっただろう。

『死神』という悪名をとどろかせる事も無かった。


 そう、争うことが嫌で辺境に隠れ住んだ私が『優しい無欲な領主』という評判を得たように。


 だが、覚悟があるのなら別だ。存分にやれば良い。

 後になって悔やむぐらいなら『出来る事をやるべき時に』存分にするべきなのだ。


 彼にはそれだけの能力があるのだから。

 


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