10.鳥篭の外へ
間もなく、1週間がたとうとしていた。
リオンは誰にも見つかることなく、部屋に隠れ住んでいる。
日中は、俺の勉強や稽古があるのでほとんど一緒には居られない。
弟は地下神殿から持ち出した、あの小さなぬいぐるみを幼子のように抱きしめて、俺の帰りを待っていてくれる。
一人で眠るには広すぎるベッドで、夜は一緒に眠った。
女の子みたいな弟と一緒にというのは、最初は緊張したけれど、部屋にはベッドは一つしかないから仕方ない。
ふと思いついて、眠る前には一緒に絵本を読むことにした。
気が少しはまぎれるし、外に出た事のないリオンには絵のついた本の方がわかりやすいと思ったからだ。
その絵本は、妹姫ヴィアリリスのところからこっそり失敬してきたものだったが、今まで呪文や勤めにかかわる事しか教えられてこなかったリオンは、とても喜んだ。
……ああ、この子は本当に子供なんだ。
絵本なんて、リオンぐらいの年なら、もうとうに興味を失っているはず。
でも、弟は神書や魔道書しか読んだ事がない。
誰かに優しくされる子供時代というものも、全く経験していない。
だから本当に、本当に……とても嬉しそうに、俺の読む声に耳を傾けている。
そうしていつの間にか、コトンと眠ってしまうのだ。
十分とはいえないまでも、二人でそんな風に過ごすうちに、リオンにもだんだんと外の世界の知識が備わってきた。
絵本からだけでなく、窓から見る空は青く高いこと。
風が気持ちよくそよぐこと。
外には綺麗な花が咲くことも、リオンは初めて理解した。
時には妹にするように、抱っこもしてあげた。
別に、何か下心があったわけじゃない。
絵本にそういう場面があって、それを不思議そうに見て首をかしげる弟が、痛ましかったのだ。
人間らしく扱われてこなかったリオンだけど、今からだって、十分やり直せるはず。
親の愛を一切受けられなかったというのなら、俺が『兄』としてだけじゃなくて『親』にもなろう。
俺がこれから……このかわいそうな弟を大切に、大切に、育てていくのだ。




