アルフレッド王編・夢の国の果て 8
僕は夢のような国・エルシオンを後にした。
ずっとずっと、あの国に居たかったけれど仕方が無い。
僕だってエルシオンの人々のように優しく生きたいのだから、故国の皆の幸せを優先するべきなのだ。
そうしてド辺境の鄙びた土地に到着した。
あの大国とは何もかも違う。
くすんだ貧しい領地。
でもそれでもかまわない。
僕は、皆の幸せをここで祈りたいのだから。
『名ばかりの公爵』として慎ましく、でも心穏やかに暮らしていくうちに月日は過ぎた。
正妃様の刺客もさすがにここまでは追ってこなかったし、僕は皆を刺激せぬよう王族の公式行事にさえ一切出席しなかった。
昔のように日々本を読みふけり、時々エルシオン王国を思い出しては懐かしむ。
臣下や民には優しく振る舞い、良き領主として慕われた。
それでもう十分に幸せだと思っていた。
2年がたち、穏やかに本を読んでいたそのとき、知らせが入った。
祖国ブルボアが革命により崩壊したのだという。
革命……そんな動きがあるなんて僕は知らなかった。
祖国の崩壊はあまりにも突然だった。
いや、当時の僕が知らなかっただけで……決して突然ではなかったようなのだけれど。
まず、父が亡くなったことが始まりだ。
その原因は病気と聞いていたが、実際は暗殺だったようだ。
正妃様は、父王が再び僕を『王位継承者』に据えるのではないかと警戒し、密かに毒を使ったらしい。
もちろん王妃様単独の思いつきではない。
正妃様のお子はまだ幼いから、王に担げばやりたい放題できる。
そう踏んだ一部貴族がそそのかしたのが真相のようだ。
でもそんなことは、当時の僕にはわからなかった。
王が毒殺されたことは一部臣下が知るのみで、当然外に向かっては『病死』と発表された。
まぁ、そんなこともあるか。
遠くに住まう僕は、王宮の発表を疑いもしなかった。
父は女遊びが過ぎたせいか、それとも出来の悪い王子たちや仲の悪い妃たちによる心労のせいか……僕がエルシオンにおもむく頃には少々体を悪くしていた。
大国のように優秀な治癒魔道士がいるわけでもなく、そのぐらいの年齢で亡くなる人は大勢いる。王族貴族もまた然り。
なので、僕は王宮からの報告を素直に信じ、父の冥福を遠くから祈るのみだったのだ。
葬儀にはさすがに行きたかったが、ド辺境のこの場所に使者が届くまで、馬車を飛ばしても約7日。
文が届く頃にはすでに葬儀は終わっていた。




