アルフレッド王編・夢の国の果て 5
そうやってドロドロとした決意を内に秘め、かの大国に向かったはずなのに……僕はあっという間に変わってしまった。
多分エルシオン王国独特の空気がそうさせるのだろう。
巨大王国から見れば十分にみすぼらしい僕を、エルシオン王は大歓迎して下さった。
お后様も同様だ。
お二人の容姿はとてつもなく麗しく、40歳に間もなく届くなんて想像も出来ない。
何より瞳が澄んでいる。
同じ女性とはいえ、お后様は祖国の鬼女たちとはまるで違う生き物のようだった。
「ようこそわが国へ」
僕より少し年上の、美貌の少年皇太子も驚くほどの気さくさで僕に話しかけてきた。
皇太子に寄り添うように微笑む極上の美少女は、きっとわが国で噂になった『貧しい小国出の姫』なのだろう。
では、姫の少し後ろでにこやかに微笑んでいる少年は『麗しの姫』のオマケとして祖国から追い出されたという『姫の兄君』だろうか?
ナニコレ?
こんな綺麗な人間たちが、まさかこの世にいようとは。
父王は美しい女性に手を出しまくっていたが、美しさのレベルが全く違う。
その差は銅の指輪と純金の王冠程もあるだろう。
いや、それ以前にあの姫君の幸せそうなこと。
全く信じられない。
普通、小国から買われるようにして引き取られた姫の立場は大変微妙だ。
陰謀渦巻く宮中に、後ろ盾も財力もろくに持たない姫が入り込んだなら色々と影から嫌がらせをされるのが世の常というもの。
しかしこの姫は僕のような暗い瞳をしていない。
姫のオマケとして国を追い出された兄君も、堂々と大国の王族たちとなじんでいる。
臣下の者たちも皆穏やかそうで、従者でさえその表情は明るい。
更には『絶対者』である王族や貴族に対しても彼らは軽々しく話しかけ、笑いあっているのだ。