エリス姫外伝・願いの空 3
少年の……恨めしそうな、暗い瞳を思い出す。
きっと私も今、同じような瞳をしているのだろう。
ああ、あの少年も『私と同じ』だったのだ。
私は最後に名を呼ばれなかっただけでヴァティールを、アリシアお姉さまを恨んだ。
確かにそこに居たのに、何故ヴァティールは『私の名』を呼んでくれなかったのだろうかと。
たった一言でもいい。
「エリス」と呼びかけてくれたなら、私はあの辛い出来事を受け入れることができた。
それなのに何故?
心にわだかまる物はあったけど、私はアリシアお姉さまやヴァティールを恨むのはやめた。
代わりに信じることにした。
だって私は確かにヴァティールに愛されていた。
最後に名を呼んでもらえなかったとて、それは変わることはないはずだと気がついた。
あれだけの愛を何年も注いでくれたのだから、もっとヴァティールを信じてあげなくては。
そうでないなら、私は結局あの少年と同じ道をたどるだろう。
……もし、もっと前に私がここに来ていたのなら、あのリオンという少年と話をしてみたかった。
きっと私たちは良いお友達になれたことだろう。
こんなにも『似たもの同士』なのだから。
そしてまた十年が経った。
私は名実ともに妃となり、可愛い娘が一人いる。
ヴァティールと名付けたかったけど、先にアリシアお姉さまに盗られてしまった。
やっぱりズルイ、お姉さま。
ティティと名付けた我が子はちょっと勝気で優しい娘となった。
明るい金髪は私が大好きだった彼のものとよく似ているし、性格もアリシアお姉さまのところの静かな息子より、ヴァティールに似ている気がしてちょっと嬉しい。
まっ。私ったら、なんてはしたない。
お姉さまを恨むのは、もうとっくにやめたはずなのに。
でも人の心は他人からは見えないから、きっと平気。
時々魔が差すことはあるけれど、それは私の胸の中にだけしまってこれからも私は気高く優しく生きていく。
ヴァティール。
何百年後でもいいから、目覚めたら私の噂を集めてね。
エリス王妃は一点の曇りもない優しく気高い王妃であったと――――後世の人々はきっと誉めそやすから。
そうしたらあなたは、
「ワタシの娘なのだからアタリマエだ」
と不敵に笑ってね。
あなたに大切にされた私はこんなに立派に生きましたよと、私は『私の影』をあなたに残していくから。
これが私の愛の形。
どうかどうか、あなたに届きますように。
Fin
今回はヴァティール側にいたエリス姫のお話でした。
エルはヴァティールとは和解済ですが、どうしてもリオンよりになってヴァティールがやや気の毒です。
そこでヴァティール>>>リオンなエリス姫の立場から書いてみました。
姫は実は一点の曇りもない優しく気高い王妃……とは程遠い人格ですが、大好きな人のために自分を高めていければそれはそれで良いと思います。(やりすぎなければ)
今度はアルフレッド王がやや気の毒ですが、エリスは良き妻、良き母、良き王妃でしたよ~。
読んでくださってありがとうございます。
あ、そうそう。
最後にエリスに声をかけなかったのは、単に余裕が無かったからです。
次回は10日後。
多分アルフレッド王のお話になります。