外伝 ヴァティールの独り言9
可愛さ半分、憎さ半分。
赤子を育てるようになって数日がたった。
そしてある時……赤子はワタシを見て、とても嬉しそうに笑ったのである。
今まで感じたこともない、不思議な感覚だった。
世界の空気が一気に変わった気がした。
以後赤ん坊は、私を『親』だと信じ込んですくすくと育っていった。
初めてしゃべった言葉は「ぱーてぃ」だったし、いつもワタシにくっついてまわる。
チョコチョコと歩くさまは、本当に愛らしい。まさに至宝だ。
親バカは承知の上だが、娘は性格もとても愛らしい。
なにしろ、このワタシの愛をすべて注ぎ込んで育てたのだ。
ワタシはこの子が可愛くてたまらず、胸に渦巻いていた憎しみの炎すら消えそうになっていた。
それでもふと思う。
この子は『空』を知らない。
『花』も『海』も『鳥』も『森』も。
この世にはいくらでも美しいものがあるというのに、何も知らない。
いつかは娘を連れて、この忌まわしい場所から逃げよう。
ワタシを無心に慕ってくるこの娘に、この世の美しいものをすべて見せてやろう。
そう思いながら、日々を過ごしていた。
娘アッシャが15歳のときだった。
ワタシはある計画を企てていた。
アースラは隙が無い。
それでもワタシの血を娘に与え続ければ、おそらくアッシャの体は変わっていく。アースラの妹、リリーシャがそうだったように。
アッシャの潜在能力は、今でもアースラを超える。
ワタシが密かに指導すれば、アースラの檻さえ破ることが出来るだろう。
しかし、その計画はあっけなくアースラにばれた。
ワタシ達は引き離され、以後娘の顔を見ることは一切叶わなかった。
今回も自動更新です。
明日、帰宅予定。
元気があれば更新します。なければ次の日かも……。




