外伝 ヴァティールの独り言5
それでも、ワタシがリオンの魂を始末しなかった理由は一つ。
リオンがそれなりの情……人間の心らしきものを持っていたからだ。
前回体を乗っ取ったときは、アースラの律を破ってまで兄を慕い、人としての暮らしを選んだことが奴の記憶から読み取れた。
今回は記憶に鍵をかけて死にやがったので、どういう暮らしをしていたのかは人々の噂でしかわからない。
しかし死ぬ数分前に共にした、奴の心はこうだった。
『出来るなら、城の皆も助けて欲しい』
そんな―――――祈りにも似た願いを持っていた。
まあ兄がメインであることは相変わらずだったが、ホンの少しでもそう思えるような人間になっていたのだから、身内にすら冷血だったアースラとは大違いだ。
だから少しだけ情けをかけ、アレス軍を焼き払い、望みを叶えてやった。
城の皆も助けてやった。
リオンが『糞アースラの人器』であることは動かしようもない事実だが、アレが『哀れな子供』であることもまた、一つの真実ではあるのだ。
ワタシはリオンの魂を壊すことはせず、深く眠らせておくだけに留めた。
すぐに復活させてやるつもりはもちろんないが、ワタシの本体を探し出すことが出来れば、この体はもう不要。
そうなれば、いくばくかの制約をかけてリオンを解放してやっても良い。
もちろんそれ以上の配慮をしてやるつもりはない。
アレは子供とはいえ、ワタシにとっては油断のならぬ『敵』
アースラの末が育てた、恐るべき『強敵』なのだ。
リオンの望みを叶えてアレス軍を焼き払うことだって、結局はやってしまったが、最初はやるつもりはなかった。
何故ワタシが敵のために働かねばならないのだ。
しかも魔物が人間の争いに干渉するのは、かなり外聞が悪い。
気がすすまなくて当たり前だ。
……え?
嘘をつけ! ノリノリだったじゃないか……って?
それは違うぞ。
アレでも恥を忍んでやったのだ。
人間だってそうだろう?
いくら力があったとて、いい年した健康な若者が、アリの巣を見つけて
「死ね死ねこの蛆虫どもがァァー!! ひゃっはー♪」
とかやってたらどう思う?
アホだ。
まごう事なきアホだッ!!!!
……と思うだろう?
つまり、他の同属からはそういう目で見られるのだ。
でもまあ、ワタシとしては『たかが子供一人』を大勢でなぶり殺すような人間を焼き殺そうと、胸が痛むわけではない。
そして奴らは『ワタシ』の器を壊した『ワタシ』の『敵』
自分の身を守るためでもあるのだから、聞けない願いという程ではない。
その際のサービスとして、昔、アースラが戦の時やっていたような、
『えげつないセリフを吐きながらの高笑い』
……も再現しておいたから、魔力で覗き見していたであろうアレス王は『過去の歴史』を思い出し、さぞかし肝を冷やしたことだろう。
 




