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リオン編   その日8

 そんな調子なので、女性客はガタッと減った。


 けれど、兄様は腕がいい。

 村だけでなく、遠くからもお客さんが途切れることなく訪れている。

 ありがたいことだ。


 この村の人たちは基本的には親切で、隣のロンさんのところの牛が逃げたことが今年最大のニュースというぐらいの平和な場所だ。


 そこで僕らは、犬を一匹飼って幸せに暮らしている。


 兄様は城を後にするとき、ついうっかり僕のぬいぐるみを落としてしまったそうだ。

 そのお詫びにと、村に来てすぐの頃、可愛い子犬をプレゼントしてくれた。


 子犬はもうすっかり大きくなったけど、今でもとっても可愛いよ。

 ペロペロ舐めるので、名はぺぺと言う。

 僕がつけてあげたんだ。


 兄様は、僕のぬいぐるみを失くしてしまったことを何故かいつまでも、いつまで~~も、ペコペコ謝り続けて下さる。

 時には涙ぐんでまで。


 でも、僕だってもう15歳だ。


 確かに最初はショックだったけど、今ではぺぺの方がずっと大事だし、もうぬいぐるみを抱いて喜ぶ年じゃない。

 そんなにいつまでも執念深く怒ったりはしないよ。

 

 こんなに優しい弟なのに……兄様って時々失礼だよね。



 さ、起きたならご飯を食べて家周りを掃除しなきゃ。

 いつまでも、ちっちゃい子みたいにめそめそ泣いていたら恥ずかしい。


 神官の任は降ろされたけど、クロスⅦが仕込んでくださったおかげで掃除はバッチリなんだ。


 料理は兄様が僕を子ども扱いして包丁を持たせてくれないから上手くならないけど、それでも兄様が留守の間にコッソリやってみたら、それなりに出来ていた。

 毎日のように見ていた夢の中と、同じように。

 僕って意外と料理の才能があるのかも……。

 

 開け放たれた窓から見えるのは、高く澄んだ青い空。


 僕の中から居なくなった魔獣は……こんな綺麗な青空を見ることもなく、まだ地下のあの場所で眠っているのだろうか?

 だとすると、アースラ様もちょっと酷いんじゃないかと思う。


 魔獣だって、クロス神官だって、少しぐらいは自由が欲しいよ。

 空ぐらい見たいよ。



 ねぇ兄様。


 もしかしたら兄様は笑うかもしれないけど、僕はいつかあの二人にもこの綺麗な空を見せてあげたいって思っているんだ。


 神官をクビになった僕は外に出れたけど、師や魔獣はそうじゃない。


 夢は最初、怖いばかりだったけど、今ではそれ以外の事も思うようになった。

 年を経るごとに、その思いは強くなっていく。


 夢の中の魔獣は、僕の体を奪った憎い奴だった。

 でも魔獣だって自由が欲しいよね。笑い合える友達も欲しいよね。


 魔獣は『忌むべき存在』とされていたけれど、そんな彼は、実は僕らのための礎とされ、踏まれ続けてきた。


 夢の中の僕は自分ばかりが国民たちに踏まれ、贄になったと憤っていたけれど、違う。


 僕を含め、すべての人々が魔獣ヴァティールを踏んづけていたんだ。

 ヴァティールは、さぞ悲しくつらい気持ちだったろうね。ごめんね。


 どうやって謝れば良いのか、今の僕にはわからないけれど。


 魔獣はアースラ様とは仲が悪かったようだ。

 それは書物にも残っている。


 けれど、始祖王とは仲が良かったようなことをうかがわせるような文献が、ちょっぴりだけどあったのも事実。


 魔獣は、アースラ様がおっしゃるほど悪い奴ではなかったのかもしれない。

 

 もしも魔獣と巡り会う機会があったなら、今度は魔獣を支配する神官ではなく、彼の友達になりたいな。

 かの始祖王シヴァ様のように。


 ……そんな風に考えられるようになったのも、今の幸せな暮らしと兄様のおかげ。


 兄様がいつも優しくして下さるから。

 いろいろな優しい人たちに、引き合わせて下さったから。


 だから僕は、様々な人の想いや価値観に、思いを馳せることができるようになった。


 それらを夢とすり合わせていくうち、段々と夢を見る頻度は下がっていった。


 もし今の僕があの夢の立場に立たされたらなら、きっともっと……もっと上手くやれる。あの悲劇もきっと防せげる。


 皆とも仲良くなれるだろう。

 ……多分、夢の中に出てきたあの女性とさえ。


 いつかは僕も完全にあの夢を見なくなる日が来るだろうか?

 そんな日が早く来て欲しいような、でもいつまでも見た方が良いような……。


 ここだけの話だけど、体内に魔獣が居なくとも、僕はまだそれなりの魔術は使える。若い頃のアースラ様と同等以上ぐらいには。

 何となく使っちゃいけないような気がして、一切使ってないけどね。


 ……もしかしたら、僕が魔術を悪いことに使ったりしないよう、アースラ様が警告として僕に夢を見させているのかな?


 だとすると、お礼を言うべきなのかもしれない。

 僕は夢から色々なことを学んだし、強すぎる力は皆を不幸にすることもあると知ったから。

 

 ああ、兄様が呼んでいる。

 どうやら裏庭をはいているうちに、最初のお客さんが来たみたいだ。


「ちょっと待ってて下さい、すぐに行きますからっ!」


 僕はほうきを片付け、兄の待つ楽しい職場へと歩を進めていった。



 Fin.





<ぷち後書き>


 読んでくださった皆様、ありがとうございましたっ!!!

 おかげさまでリオン編完結です。


 このお話の1年後、リオンは『あの夢』が事実であったことに気づきます。

 兄は前よりじじ臭くなってるし、魔術は使えなかったはずなのに念写真をとることが出来たり。

 エルは上手く隠してるつもりですが、アレレと思うことがいっぱいありますものね。


 でもその頃には兄は『リオンが不要な子』だったから刺したわけではないことを理解しているでしょうし、むしろ数万の罪無き国民を殺さずすんだことにホッとしていると思います。


 ちなみにぬいぐるみは処分したわけではなく、ブルボアの宝物庫にちゃんとしまってあります。

 

☆お知らせ


リオン編の動画を新たに作りました。

後書き欄はリンクをはれないので興味のある方はコピペして検索してください。

https://www.youtube.com/watch?v=XOp5ZCdXfoI


明日は「王子と魔獣」の更新はありませんが、活動報告を書きます。

もしよろしければご覧下さい。

 リオン編はこれで終わりですが、次はヴァティールの外伝(今回は短編)を一週間以内に更新します。


ではまた~!!

読んで下さった方々、ありがとうございます♪

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