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リオン編   その日6

 人の世のものではない、黒き炎を手にまとう僕の前に兄様が歩み来る。

 綺麗な金の瞳には涙が溜まり、僕を見つめる。


「リオン、やめろ……」


 ささやく様な、懇願するような声に、小さく首を振って一歩下がる。


 どんなに兄様に頼まれても、これだけはやめるわけにはいかないのだ。


 それでも、兄様の涙に心が揺れる。

 何が正しくて、何が間違っているのか、段々とわからなくなってゆく。


 早く……早く決着をつけてしまわねば。

 僕の決意が鈍らないうちに。


 手をより高くかかげ、発動のための最後の呪文を唱えようと僕は…………。


 その瞬間、兄様が僕を抱きしめた。

 強く。強く。強く。


 僕は、こうされるのが好きだった。


 どんなに悲しい事があったって、兄様に抱きしめていただければ、ただそれだけで幸せを感じられた。

 ずっと望んでいたはずだったのに……。


「どうして……どうして駄目なのですか?

 僕はただ、兄様と一緒にいたい……だけ……なのに…………」


 兄様の腕の中は、幼い頃と変わらず暖かだった。

 でも、もうその心の中に僕はいない。


 瞳から一筋の涙がこぼれた。

 そして口の端からは、真っ赤な血が。


 兄様が殺したのは……他の皆ではなく『僕』だった。


 僕の魔剣を使って、兄様は僕の背を貫いた。

 7年間存在しなかった僕はもう、いらない者となってしまっていたのだ。


 ならば――――――僕も、兄様を抱きしめようか?

 ぼんやりとした頭で考える。


 消えかかっているとはいえ、まだこの手には魔炎が宿っている。


 最後の力で兄様を抱きしめて、共に燃え尽きるのも良いかもしれない。

 お互い人ならぬ身となってしまったけれど、すべてを焼き尽くすこの魔炎であれば、きっと再生は叶わない。


 そう思ったのに……確かに思ったのに……。

 僕には出来なかった。


 走馬灯のようによぎるのは、兄様との幸せな思い出。


 初めて見た青い空。


 美しい花々。


 一緒に過ごし、共に笑いあった楽しい日々。


 僕の幸せのすべては、兄様と共にあった。


 迷っている間に魔炎は消え、僕の命も、もうすぐ尽きる。


 でも、これで良かったのだろう。

 兄様を焼き殺すなんて、やっぱり嫌だ。


 愛して、愛して、言葉には出来ないぐらい大好きで大切な僕の兄。

 兄様を殺せないなら、僕は一人で逝くよ。


 だって兄様に愛されない僕なんか、生きていたって仕方ないから。


 この体だって、魔獣が自由に使えばいい。

 魔獣のほうが『人』と上手くやっていくだろう。ほら、僕なんか誰にとっても必要じゃない。


 最後に伸ばした手は、兄様ではなく空を掴む。


 さよなら兄様。


 …………………………永遠に。

 

 


 そんな悪夢を見て、僕はハッと飛び起きた。





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