表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/451

リオン編   その日3

「おめでとう…………兄様」


 皆が、ギョッとした顔で振り向いた。


 その瞬間、白い花束とドレスに鮮血が散った。

 アリシアが胸を押さえて、ゆっくりと倒れていく。


 『死が二人を分かつまで』


 誓いの言葉はこうだった。


 だから、これでいい。

 あんな誓い、僕が無効にしてあげるよ。


 僕がいない間に兄様をたぶらかし、誓いで縛って僕から取り上げるだなんて……アリシアはやっぱり酷い女だ。まるで悪魔みたいだ。


 お前には、お前を命がけで愛してくれた『母親』だっていたじゃないか。

 その母親の死を笑ったお前が、今度は僕の大切な兄様まで盗むのか。

 

 ふいに、あの最後の戦いで腹を割かれたときの痛みが蘇った。

 血が流れ、内臓がずるりと垂れ下がるのがわかったが、僕はうめき声すら上げなかった。


 叫べばきっと、兄様が苦しむ。


 もしかしたら、アリシアや王も。


 だから声をあげなかった。


 必死に喉に押しとどめた悲鳴が胸に、心に、まだ溜まっている。

 あれから7年近い月日が過ぎたらしい。

 でも、目覚めたばかりの僕にとっては、ほんの数分にしか感じられない。


 苦しい。


 苦しい。

 

 瞬殺ではない殺し方は、クロス神官には許されていないが、そんなことはもうどうでも良かった。

 アリシアはその罪にふさわしく、たっぷりと『痛み』と『恐怖』に苦しみながら死んでもらわなくちゃね。


 僕の苦しみは、その苦しみの何百倍だったのだから。


「酷いです兄様。

 あんなに忘れないでって言ったのに……もう僕の事なんか、すっかり忘れてしまったのですね」


 僕は、アリシアの手から落ちた熊のぬいぐるみを拾い上げた。


「これも僕のなのに。兄様は僕のなのに。僕が命がけで守ったのにっ!!!」


 アリシアを刺しても、まだ足りなかった。


 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ