リオン編 その日3
「おめでとう…………兄様」
皆が、ギョッとした顔で振り向いた。
その瞬間、白い花束とドレスに鮮血が散った。
アリシアが胸を押さえて、ゆっくりと倒れていく。
『死が二人を分かつまで』
誓いの言葉はこうだった。
だから、これでいい。
あんな誓い、僕が無効にしてあげるよ。
僕がいない間に兄様をたぶらかし、誓いで縛って僕から取り上げるだなんて……アリシアはやっぱり酷い女だ。まるで悪魔みたいだ。
お前には、お前を命がけで愛してくれた『母親』だっていたじゃないか。
その母親の死を笑ったお前が、今度は僕の大切な兄様まで盗むのか。
ふいに、あの最後の戦いで腹を割かれたときの痛みが蘇った。
血が流れ、内臓がずるりと垂れ下がるのがわかったが、僕はうめき声すら上げなかった。
叫べばきっと、兄様が苦しむ。
もしかしたら、アリシアや王も。
だから声をあげなかった。
必死に喉に押しとどめた悲鳴が胸に、心に、まだ溜まっている。
あれから7年近い月日が過ぎたらしい。
でも、目覚めたばかりの僕にとっては、ほんの数分にしか感じられない。
苦しい。
苦しい。
瞬殺ではない殺し方は、クロス神官には許されていないが、そんなことはもうどうでも良かった。
アリシアはその罪にふさわしく、たっぷりと『痛み』と『恐怖』に苦しみながら死んでもらわなくちゃね。
僕の苦しみは、その苦しみの何百倍だったのだから。
「酷いです兄様。
あんなに忘れないでって言ったのに……もう僕の事なんか、すっかり忘れてしまったのですね」
僕は、アリシアの手から落ちた熊のぬいぐるみを拾い上げた。
「これも僕のなのに。兄様は僕のなのに。僕が命がけで守ったのにっ!!!」
アリシアを刺しても、まだ足りなかった。




