リオン編 戦火再び1
上手くいっている時ほど、魔が深いという。
これは、アースラ様がお遺しになった言葉だ。
でも僕は毎日がとても幸せで、すっかりそんな言葉は忘れていた。
日々は穏やかで、修行は順調。
時々アリシアがお菓子を持って修行の邪魔をしにくるけれど、そんな騒々しさにももう慣れた。
兄と共に過ごしていた地下神殿に、王の使いが駆け込んできたのはそんな頃だった。
慌ただしい足音に、不吉なモノを感じる。
ううっ。やだなぁ。
今度は何だろう?
こういうときはロクな知らせじゃないって事を、僕はもう知っている。
せめて……防虫剤一斉塗布のお知らせとかでありますように。
何かの、工事のお知らせとかでありますようにっ!!
心の中で祈るが、多分そういうことではない。
「エル様、リオン様、実は……」
初老の伝令は、とんでもないことを語り始めた。
アレス帝国。
僕らの故国を滅ぼした憎っくき敵が、ブルボア王国に宣戦布告してきたというのだ。
うわ~ん! そりゃないよっ!!
頑張って、頑張って……やっと手に入れた兄さんとの結婚生活……じゃなくて兄弟水入らずの平穏で幸せな生活。
それをよりによって、またアレス帝国っ!!!
どんだけ僕と兄さんの幸せを邪魔をすれば気が済むのだろう。
このお邪魔虫めがッ!!!
アレス帝国は300年前の大戦でアースラ様に惨敗している。
当時は魔道の人体実験場として残されただけの、消滅寸前の極小国だったらしい。
でも今は成り上がって、強大な国となっているようだ。
……ブルボア王国の貧弱な戦力で、果たして応戦できるのだろうか?
ブルボアにも屈強そうな大男はいっぱいいるが、子供の僕が、この国では一番強かった。
魔道を使えない兵たちは、口ばっかりで大変弱い。
故国エルシオンでもそうだった。
ブルボア王国は小国。あのエルシオンを滅ぼしたアレス帝国にはむかえるとは思えない。
でも、せっかく歯を食いしばって守ってきたこの国を、アレス帝国ごときに差し出すなんてありえない。今の僕は、この国を守護する神官魔道士でもあるのだから。
かつてアースラ様がなさったように、自国であるこの国、そして最愛の兄との平穏な暮らしのために、この身を捧げて戦うのが本当なのではないか?
組織間抗争のときも、僕が頑張れば何とかなった。
アースラ様はかつての大戦の折、アレス帝国内での魔道士育成を禁止している。それだけでなく、すべての魔道行為を禁じさせていたはず。
だからアレス帝国の兵だって、そう強くはないはずだ。
あれから時はたち、僕の13番目の封印も解けた。
今なら暗殺隊にいた頃よりも強い魔力が使える。
僕なら、十分やれる。
ただ、今回の方が大規模な戦いになることだけは間違いない。
兄さんまで危険にさらす恐れがあることだけは、辛く、悲しかった。




