リオン編 願いの日5
兄さんは今、ほとんどの時間を僕と神殿で過ごしている。
浮かべるのは、穏やかな笑顔。
歌うように祈る僕を、優しく見守っていて下さるのだ。
エルシオン王族は、結界の作用を全く受けない。
だからこれは、兄さんの心からの笑顔。
僕の『祈り』の声をただ静かに、満足そうに聞いていらっしゃる。
……誰にも邪魔されず、悪くも言われず、二人きりでこんなに長く一緒に過ごせるなんて、夢みたいだ。
そういえば僕がもっと幼い頃、『兄さんと結婚したい』と願ったことがあったっけ。
年数にすればたった2年とすこし前なのに、うんと昔の事のように感じる。
この国に来たばかりの頃、その話をうっかりアリシアに漏らしてしまい、思いっきり笑われた。
憤慨して王にもその話をしたのだが、王にも吹き出されて、僕は現実を知った。
小さい身内の求めに応じて『そういう約束』をすることは、決して珍しくはないらしい。
けれど、僕の年までそれを信じている人は、あまりいないということだった。
そっか……駄目なのか。
がっかりだよ。
いつか見たあの花嫁さんのように、美しい白いドレスを着て、幸せそうに兄さんの隣を歩きたかった。
広場のあの人々のように、皆が僕たちを祝福してくれたら、どんなに素晴らしいだろうかと、夢見ていた。
なのに、ただの夢で終わってしまった。
けれど、こうやって二人きりで過ごしていると、まるで兄さんと結婚しているみたいに思えて仕方ない。
結婚って言うのは、大好きな者同士二人が一緒に過ごし、一緒に人生を歩むって事らしいから。
それにほら、王が下さった豪華で真っ白なこの神官服。
花嫁のドレスに見えないことも無いよね?
たとえ兄さんと結婚できないとしても、ずっと兄さんと一緒にいたいな。
一番側にいたいな。
このまま何にも脅かされず、二人で、ただ穏やかに時を過ごしたい。




