リオン編 願いの日4
その後は王に賜った地下神殿で、一日のほとんどを過ごした。
どうせ部屋に戻っても、兄は居ない。
それなら幸せだった昔を思い出しながら、ここで修行したほうが良い。
心を澄まし、クロスⅦの言葉を思い出す。
2年もの間サボってしまったが、今からだって遅くはない。いずれは師のように立派な神官になれるよう、努力するのみだ。
この場所は元々、王族の廟となる場所の一つだったらしい。
まだ死ぬ予定は無いからと、王はポンと無料で10年間の使用権利を下さった。
その後の使用権はまた、要相談らしい。
この部屋は、とても広く快適だ。
元々物はほとんど無かったから、王が買ってくださった、祭祀に必要な道具が少々置いてあるのみ。
兄さんは、
「え!? 廟予定地? そんな陰気な場所で?」
と驚いていたけれど、それで十分。
なんたって、タダなのだし。
それに、兄さんに暇が出来たときに通いやすい立地。これだけは外せない。
大理石で出来た白い壁や高い天井は、僕が幼い頃を過ごした思い出深いあの場所にとてもよく似ていた。
だから正直、不快どころか、とても懐かしい気がして嬉しくなる。
そうやって気分良く過ごすうちに、兄さんはある日突然、親衛隊長を辞めてきた。
あの王がよく兄を手放したとは思うけど、やっぱり嬉しい。
だって兄さんと、一日中一緒に過ごすことが出来るようになったのだから。
元々僕は、多くの事を望んでいたわけじゃない。
公務の間に、昔みたいに嬉しそうに僕に会いに来て下さったらいいな……そう思っていただけだったのに、兄さんはずっと僕と一緒に居て下さる。
こんな幸せなことがあるだろうか?
やっぱり、辛くても仕事を頑張ってきてよかったのだ。
だから、今の幸せがあるのだ。
『リオンが一番大切だよ。一番大好きだよ』
死神と称されるようになってからも、そう言い続けて下さった優しい兄さん。
その言葉は真実だった。
仕事よりも、他の人との付き合いよりも、僕と過ごすことだけを最優先して下さる。
だからもう、誰に忘れられようと、嫌われようといいのだ。
僕に冷たかったこの国の人々の仕打ちだって、恨んではいない。
兄と幸せに過ごせさえすれば、他はどうだって良いのだから。
僕は毎日修行を続けた。
兄さんは多分、『祈りの歌』を捧げているだけだと思っていらっしゃる。
その誤解は解かない。
兄さんは今でも、僕が魔術を使うことを快くは思っていないから。
高レベルの『善の結界』を全国土に張り続ける程の力は、今の僕には無い。
けれど、薄く広く、ゆうるりと結界を延ばしていくことなら出来る。
このぐらいの力だと、結界の効力は薄くて、善人化はほぼ望めない。
それでもまずは、結界の範囲を広げる訓練をすることが大切だ。
僕にかかっている封印は年毎に解け、力は20歳になればすべて解放される。
それまでにコントロール力を上げておかないと、上手く範囲が操れない。
でも、今から頑張れば、国境に沿うような形でそれなりの結界を張れるようになるだろう。
この国の人々は今よりうんと優しくなり、エルシオンの人々のように心の平安を得るはずだ。そうして平和な世は、ずっとずっと続くのだ。
この国が、少しでも昔のエルシオンに近づけば嬉しいな。
そうしたらきっと、アースラ様や……今は亡きクロスⅦも喜んでくださると思うから。




