リオン編 死神9
しばらくして、僕は仕事に復帰した。
けれど前の隊員たちは、もう全員逃亡済みだった。
きっと僕からの報復が恐ろしかったのだろう。
心配しなくても、僕は報復なんかするつもりはなかった。
あんな奴らでもガルーダの一員だ。殺したりするわけがない。
でもやはり、理不尽な気持ちだけはどうしても消すことが出来なかった。
怖かったのは僕のほうなのに。
死にそうになったのは僕のほうなのに。
それでも僕は、あいつらの事をいっさい告げ口しなかった。
隊員に殺されかけたということが公になったら、王は僕を任から降ろそうとするだろう。兄も黙ってはいない。
でも僕は、兄を守りたい。この任を降ろされるわけにはいかないのだ。
隊員の顔ぶれは一新したが、僕を恐れている様子は変わらなかった。
どんなにみんなを助け続けても、誰も僕に感謝することはない。
何だか、神官時代を思い出す。
そうと知ったのは随分後になってからだったけど、僕たちは誰からも感謝なんかされていなかった。
僕も師も、あんなに頑張ったのに。
隊員たちは、その後も僕を魔物のように恐れ、ついには侮蔑の言葉すら吐かなくなった。
それは僕が居ないときも同様で、僕の名を小さく口に出すことすら恐れているようだ。
……いったいこの扱いは何なのだろう。
王も兄も、アリシアですら僕が生還するたび、とても喜んでくれた。
でも、命を助けられた本人たちは違う。
奴らの僕に対する態度は、陰口や悪態があった以前よりも更に酷い完全なる拒絶。
どうしてこうなっちゃうのかな?
僕はちゃんと皆を助けているし、使命も完璧に果たしている。
僕を見捨てて殺そうとした奴らの事も黙って見逃してあげたし、新しい隊員たちのことも、以前同様、完璧に守り続けている。
敵にだって、酷い扱いをした覚えはまったく無い。
敵たちは痛みを感じる暇も無いように、一撃で首を落とした。
あれ以降、殺すときには『善の結界』をかけたから、皆安らかな笑顔で後世のための希望を持って、気高く死んでいった。
『善の結界』が無ければ、あの人たちは悪党として無様に死ななければならなかったのに、まるで聖人のような素晴らしい最後を遂げられたのだ。
何がいけないと言うのだろう?
僕はいつも一生懸命最善を尽くしているのに。
でも、僕の行いがどう取られようと、僕は兄を守らねば。
兄さんは、僕のたった一つの光。
「リオンは『死神』なんかじゃ無いよ。とっても優しい良い子だよ。俺がこの世で最も大切に思っている自慢の弟だ」
そう言っていつも、僕の髪を優しく撫で下さる。
兄様だけが僕をわかって下さる。
『善の結界』など無くても、真の優しさを下さる。
……あと少し。
もう少しだけ頑張れば、僕はもう死神と呼ばれることは無くなる。
どうか一日でも早く、その日が来ますように……。




