リオン編 死神8
「待って……」
体力も魔力も極限まで使った僕は、歩く事すら出来なかった。
何とか這いながら逃げ出そうとするが、火がすぐ近くまで迫って来る。
空気が熱い……。
もう、防御結界を張る力も無い。
そんな力は、隊員たちを守るために使い果たした。
火のはぜるパチパチという音が恐怖をあおる。
僕の魔炎と違って、自然界の炎は温度が低い。
この炎にあぶられながら、じわじわと死んでいくのか……。
僕は敵を殺すとき、けっして苦しめたりはしなかった。
必ず一撃で殺した。
そんな僕が、たった一人でこんな苦しい死に方をしなくてはいけないなんて。
空気が熱くて、苦しい。
炎が風を巻き込み、広がってゆく。
一人きりの寂しさに涙がこぼれたけれど、火は容赦なく服に燃え移る。
もう、絶対に逃げられない。
僕はここで苦しみながら死ぬ。
生き返っても、その体はもう魔獣のものだ。兄様にも、二度と会えない。
段々と意識が遠くなる。
手足の感覚が無くなり、目を開けていることさえも出来ない。
死を覚悟したそのとたん、兄様が目の前に現れた。
まるで死を前にした者が見る、美しい幻のように。
しかし兄様は幻などではなく、僕に燃え移った炎を自らの手を使って消すと、僕を抱き上げた。
僕の記憶は、そこで途切れている。
でも僕は生きていた。兄様に助けられて。
病室で目を覚ました僕は、兄様が炎をかいくぐり、大やけどをしながらも、僕を助け出してくださったことを知った。
兄様は、目に涙を溜めて僕に言った。
「いくら隊長だとしても、隊員を逃がして、お前だけが残るなんてやりすぎだ!」
え……。
頭が真っ白になった。
僕は、そんな事を命じていない。あいつらが勝手に逃げたのだ。
火をつけたのもあいつらで、僕は、動けないのに置いていかれた。
……そうか。
僕を見捨てた隊員たちは、嘘を言ったのだ。
まさか僕が生きて戻るとは思わず、嘘を……。
彼らは僕を殺すつもりだったのだ。
兄さんから聞く話では、『僕が』命を懸けて隊員たちを逃がしたことになっていた。
嘘つき。
嘘つき。
嘘つき。
僕が動けないのを知っていて、火を放ったくせに。
僕を置いて、逃げたくせに。
何も知らない兄様は、それでも僕の優しさを褒めた。
僕は、何も言えなかった。
隊員たちに、見捨てられたとは言えなかった。




