2.鳥篭の外へ
「……クロスⅦが…………」
「クロスⅦ? 奴がお前をこんな目に!!」
そう思った瞬間、怒が体中を支配する。
こんな小さなリオンに、いったいどんな罪があるというのか。
「……違います。僕、が………………僕が、クロスⅦを……」
リオンの肩が、小刻みに震える。
「……っ……殺して……しまいました……」
「何だって!!」
あまりにも予想外なその言葉に動揺する。
俺が国に居なかった間に、いったい何が起こっていたと言うのだろう?
「……だって、仕方がなかったのです!!
クロスⅦ……兄様を殺すって……決まりを破るような王子は危険だから、王に言って殺していただく……兄様のかわりに妹姫を跡継ぎに据えるから、兄様はもういらないって。
だから…………ううっ……」
リオンはそれだけ言うと、泣き崩れた。
しゃくりあげるたびに金の髪が頼りなく揺れ、細い肩が震える。
俺は弟のその様を見ながら、呆然としていた。
「……俺たちの事……ばれてしまっていたのか」
「ごめんなさいっ!
前に兄様からいただいた、異国の飴の包み紙……捨てられませんでしたっ……!」
リオンが、叫ぶように言う。
まさか。
まさか、……あの時の!!
リオンが11歳の誕生日を迎えた時、物は受け取ってもらえぬのは俺にはもうわかっていた。
『神官は、全ての私欲を捨てよ』
厳しくそう教え込まれてきたリオンは、自分からは何も欲しがらない。
それに誰かがリオンの誕生日に、プレゼントをまた送る。
そう、俺の名を騙って。
誰が贈っているのかは結局分からず仕舞いだが、それを俺からの贈り物だと信じている『弟の夢』を壊すことは出来なかった。
なので異国で手に入れた、珍しい飴を持っていったのだ。
飴ならば小さくて、隠す場所にも困らない。
しかし、リオンはそれでも「見つかると困る」と言って、その場で食べたものを除いて、たった1粒しか飴を受け取らなかった。
食べたらすぐ包み紙もろうそくの炎で焼く……そう言っていたのに、リオンは結局出来なかったようだ。
「申し訳ありません兄様……全て僕が悪いのです。
『神官たるもの、全ての私欲を捨てて王と民に尽くせ』
繰り返しそう教わってきたのに、僕は…………」
声を抑えるように泣き続けるリオンが、哀れだった。
たった一粒の飴を兄から受け取ることが、そんなに重大な罪なのか。
弟に菓子をやった王子は、その程度のことで殺されねばならないのか。
こんな国は狂っている。
父王は敵だ。




