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リオン編   死神2

 アルフレッド王の作戦は的確で、通常の戦闘ではそれ程危険を感じない。

 最初は気負っていた僕だけど、意外と簡単な仕事であると気がついた。


 もちろん、簡単だからと言って兄にさせる気なんか無い。

 少しでも危険があるのなら、絶対に、させたくはないのだ。


 仕事を終えて戻ると、王は僕らが無事であることをとても喜んで下さる。

 それは、僕にとっても嬉しい事だ。


 一緒に働く同僚は、何故か僕にドン引k……じゃなくて引き気味の態度を取るので、少し悲しい。

 やむを得ない事情により、王の部屋で骨を2~3本づつ折ったのは確かに申し訳なかったけど、そこまで引かなくても。


 というか、引いてるのは僕の魔道技術に対してかもしれない。

 けれどあんな目で見られると、こっちも奴らを助けることにむなしさを覚えてしまう。


 何で足手まといのあいつらのために、僕が苦労しなくちゃいけないんだ。


 でも、王の態度は奴らとは違うし、仕事の指示も的確で有能。

 兄の安全にも最大限に気を配ってくださっているから、僕も嬉しい。


 これなら今の状態でも、兄に危険はないだろう。

 王にはとても感謝している。


 他の奴らはアレだけど、兄さんといい、アルフレッド王といい、やはり王族は一般の人間とはそもそもが違うような気がする。



 戦っていくうちに、組織の勢力図は大きく変わっていった。

 対立していた二組織はもはや壊滅状態で、僕も頑張った甲斐がある。


「……ねえ兄さん。明日はアルスーザのトップの首を上げてきますね。

 明後日はシークのも。逃げ回ってるみたいだけど、もうそろそろ隠れ家も尽きたみたいです。

 そうしたらこの国も平和になりますね?」


 今日も僕は兄に向かって、にっこりと微笑んでみた。


 でも兄さんは、僕に微笑み返しては下さらない。

 ただつらそうに、僕の頭を撫でて下さるだけだ。


 僕なら、全然平気なんだけどな?


 確かに仕事は忙しいし、同僚は嫌なやつらばかり。

 だけど、やってる内容は売り子より簡単だ。


 僕と兄さんの安全な居場所を求めるための戦いなのだから、未来に希望の持てる、意義のある職だと思うんだけどなぁ?


 でもその気持ちは、どう頑張っても兄には伝わらない。


「……どうしてそんなに悲しそうな顔をなさるのですか?

 昔みたいに笑って下さい、兄さん」


 僕は兄を見上げた。

 それでも兄さんは微笑まない。


「僕、アルフレッド王の言うとおり頑張りました。

 だって、どこに行ったって安住の地なんてないですもの。

 偉大なる始祖王シヴァ様やアースラ様がそうなさったように、自分たちが住む国は自分たちで作るべきなのですよね?」


 僕の結論はそれだった。


 どこに行っても安住の地など無い。

 祖国を含め、通り抜けた国々は、全て危険をはらんでいた。


 だったら、自分たちで必死で作り出すしかない。


 でも兄は、僕が『死神』でいる限りは微笑まない。本当に……本当に優しい方なのだ。


「……僕、この国が平和になったらご褒美が欲しいな」


 ぽつりと言った僕の言葉に、兄さんがうなずく。


「何だい?

 今の俺なら、相当高価な物でも買ってやれる。遠慮せずに言ってごらん?」


 そう言って兄は少しかがんで、僕に優しく目線を合わせて下さった。


「物なんか……でも僕、この頃よく昔の夢を見るのです。

 夢の中の僕は、今よりずっと小さくて、神官服を着ていて、訓練は毎日とても厳しくて……。

 だけど兄さんが、あの扉を開けて毎日僕に会いに来てくれるのです。

 僕はそれがすごく嬉しくて……とても幸せな気持ちになります」


 言いながら、僕は幸せな微笑を浮かべた。

 昔を思い出したのだ。


 何も知らず、兄の訪れだけを待っていた幼い頃は、本当に幸せだった。

 兄さんは、いつも輝くような笑顔で扉を開け、僕に会いに来てくれた。


 ……今の職務がつらいと言うより、僕は兄さんが笑ってくれないことの方がつらく悲しい。

 だからきっと、小さかったあの頃が懐かしくて、こんな夢を見るのだろう。


 今の僕は皆から『死神』と呼ばれ恐れられている。

 忌み嫌われている。


 多分皆の前から姿を消しでもしないかぎり、国が平和になってもその称号は消えないだろう。


『死神の姿を見たものは、全て死ぬのだ』


 そんな伝説を作るほどの敵を、確かに僕は殺してきた。


 忌まれる僕を哀れに思い、優しい兄さんはどんどん傷ついていく。


 確かに『人殺し』はいけないことだ。

 でも、どうしてそこまで忌み嫌われなければならないのか、僕にはほとんど理解出来なかった。


 敵を殺して何が悪いのだろう。

 国を守って何が悪いのだろう。





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