リオン編 分かれ道7
まるで魔獣のような、禍々しいその姿。
自分自身に嫌悪する。
あの憎い魔獣と『同じ姿』だなんて。
こんな姿を兄様には、絶対に見られたくない。
見られればまた以前のように『化け物』と言われてしまうかもしれない。
すぐに戻そうとしたけれど、2年近く魔術の修行を怠った僕には出来なかった。
……うそ。
ここまでコンロール能力が落ちているなんて。
力だけはこれからも毎年上がるのに、これは大変なことだ。
服はこっそり替えれば良いとしても、この魔獣のように紅い瞳をいったいどうやって戻そう。
ふと見ると、そこには首の無い死体。
新鮮な血液が流れ出している。
この血を使って高度結界を僕自身の周りに張れば、コントロール能力が落ちていても、この紅い瞳は戻せるかもしれない。
もちろん人間の血を使うことは、クロスⅦから固く禁じられている。
アースラ様の頃から続く、最大の禁忌。
……どうしよう。
でもこんな姿でいるのは我慢ならないし、きちんと戻しておかないと、魔獣に心身が近くなりすぎる。
兄様にも見られたくない。
僕は思い切って指を血溜まりに浸した。
どうせ誰も見ていない。
見られたとしても、敵を殺すのに何の問題があるだろうか。
そのまま血だらけの指で、床に紋様を描いていく。
アースラ様の尊い教えを破ったのは、これで二度目。
いろんな理由を考えて自分を納得させようとしたが、やはり気持ちは沈んでいく。
きちんと修行さえしていれば、血の力など借りなくても……わざわざ紋様を描かずとも、一瞬で戻れたはずなのに……。
こんな事ぐらいで禁忌を破らなくてはいけないのかと思うと、情けなくて涙がこぼれた。
でも泣いている場合じゃない。
僕は、僕が今出来る最善の行いをしなければならない。
そのとき、数人の足音が部屋に飛び込んできた。
また敵かと思って顔を上げたら兄様で、その瞳と僕の紅い瞳が一瞬合った。




