1.鳥篭の外へ
その年の春は父王について国外に行っていたため、半月以上リオンには会えなかった。
これまでにもそういうことはあったが、今回が一番長い。
あの小さな弟は、さぞ寂しがっているだろう。
リオンは11歳になったというのに、いつまでも小柄なままだ。
もちろん多少背は伸びたのだが、その分俺の背がもっと伸びているので、身長差は益々開いている。
淡い色のふわふわの髪と、すけるように白い肌がなんだか頼りなく、俺は小さな弟をどうしても放っておけない。
リオンは、陽のさす事の無い地下でずっと暮らしてきた。
成長の遅れは、そのせいのように思われる。
もしくは体に施されたという『魔的処理』のせいだろうか?
俺も決して大柄なほうではないが、あの年にはもっと背が高かった。
せめて短時間でも、陽に当ててやりたい。
自由にしてやりたい。
そう思うのに、次期王位継承者である俺に、たったそれだけの力が無い。
己のふがいなさが本当に恨めしい。
帰城後のあれこれを済ませ、いつものようにリオンの元を訪れると、今日は誰も迎えに来なかった。
おかしい。
クロスⅦが祈りの間に篭っている今の時間帯なら、リオンは俺の元に来れるはず。
帰城の日は、あらかじめ伝えておいた。
いつも子犬のように嬉しそうに駆けてくるリオンが、俺の訪れを待っていないなんて。
嫌な予感がしたとき、大部屋から続く金属製の扉が開き、髪を乱れさせ、白い神官服を赤く染めたリオンが現れた。
「……兄様っ!!」
リオンは、はめこまれた皮製の目隠しから涙をあふれさせて、俺に抱きついてきた。
それからハッとしたように、あわてて離れた。
「申し訳ありません。兄様のお衣装が……」
「そんなことはどうでもいい!! 血まみれじゃないか!!
訓練で怪我でもしたのか!?」
「……いいえ。その……そうではなく……」
リオンは言いづらそうに、うつむいた。




