6・王家の秘密
しかし『神官魔道士』なんて大層な肩書きを与えられても、所詮彼らは王家のためにだけ尽くす、外界から切り離された王家の奴隷。
奴隷に堕ちた子供は生れてすぐに魔的処理を施され『魔獣を取り込むための器』として育てられる。
ようするに魔術を施し、勝手に体を造り変えられるってことだ。
贄となった子供は『生まれた時に与えられた能力』を幾重にも封印されて育つ。
急激な体の変化は、流石に耐えられないのだろう。
しかし、その封印は誕生日ごとに1つずつ解かれ、20歳の誕生日をもって完全体となり、魔獣を自由に使役することが出来るようになるらしい。
また、体に受けた傷も普通の人間より明らかに早く治るという。
以前リオンが言っていた『神の癒し』の正体は、きっとこれなのだろう。
魔獣を取り込むに足る体は、大変丈夫でなければならない。
また、民や王に奉仕するために存在する彼らは、訓練で怪我をしても、過労で病気になっても、よほどの事情がなければ外には出られない。
だから、体ごと造り変える必要があったのだろう。
そして10歳になるとかりそめの資格を与えられ、体内に魔獣を封じ、以後結界の維持に全生涯をかける。
彼らは誰かに感謝されることもなく、外の楽しみも知らない。
牢獄のような地下神殿で、毎日大変な儀式を行い、声がかれるまで呪文の詠唱を続ける……そんな事を始祖たちは子孫に強いたのだ。
貧国から花嫁を迎えてきたのも、裏事情を受け入れざる負えない、立場の弱い姫を権力で押さえ込み……故国への援助と引き換えに子の一人を贄として秘密裏に差し出させるためのようだった。
しかし母を深く愛していた父は、事情を受け入れて結婚したはずの母がそれを忌み、子を流してしまったことを知ると、すぐさま他国から妾妃を取り寄せた。
辺境国カナンの男爵令嬢と系譜には記されてはいたが、おそらく落ちぶれ貴族の娘を有り余る金を使って奴隷のように買ってきたのだろう。
もしくは、本当に奴隷出身の女性だったのかもしれない。
我が国ではとうに奴隷制度はなくなっているが、多くの国は奴隷制度を残したままだ。
時には敗国の貴婦人や身分ある子供、姫君までもが奴隷として売買されることがあるという。
そういう素性の女性を求めて適当な肩書きをつけ、生贄としてのつらい定めを持つ、もう一人の王子を生ませたということも十分に考えられる。
生まれた子は特別な儀式を受け、王家の道具となった。
そして、父はその子供に会おうとはしなかった。
……会えばよかったのに。
リオンに会いさえすれば、それがどんなに愚かしいことかすぐにわかったはずなのに。
あの華奢な肩を、日に当たらぬ透けるように白い肌を、穢れのない微笑みを見てやれば良かったのだ。
俺だって、はじめはリオンの事をなんとも思っちゃいなかった。
血の繋がった兄弟であると知っても、むしろ憎んでいた。
でも会えばちゃんとわかったのだ。リオンが可哀想な『被害者』だって事を。
いくら国の繁栄と平和のためだとは言え、あんな幼い子供を犠牲にして、それで得た平和になんの意味があると言うのだろう?
「犠牲なくして平和は保たれない」
きっと父王は、そう言うのだろう。
俺にだってその論理はわかる。もう12歳だから。
でも『たった一人にだけ犠牲を負わす』のは、絶対に間違っている。
国の皆で少しずつ痛みを分け合って、発展していけばいいのだ。
昔ならいざ知らず、わが国はもう300年近く大きな争乱が無い。
国は豊かで、人々の教育水準は高い。
一般の人たちは魔法など使うことなく、それでも真面目に働き暮らしを立てている。
いつまで時代錯誤なことをやっているのだ。
俺が王位を継いだなら、この悪習は絶対に打ち破る。
そして、大好きな可愛い弟を自由の身にしてやるのだ。




