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リオン編   シリウスという国11

 アリシアは長い廊下を通り抜け、おばさんの部屋まで迷いなく進んだ。


 切り殺されている母親を見たなら少しは動揺し、悲しむかと思ったのに、アリシアは死体の首につけてあったネックレスを乱暴に奪い取っただけだった。


「死んじゃった人にはもういらないものね。まあ父さんの形見だし、売値もつかないような安物だけど、もらっておいてあげる。

 ね、いいでしょ? 私がもらっても……」


 ニッコリと笑う彼女の顔を、僕はびっくりして見つめていた。


 手にしたネックレスは、確かに値もつかないような安物なのかもしれない。

 僕はそういうことはよくわからないけど、神殿内の宝具についていたものはもっと立派な石だったように思う。


 でも僕には、彼女の手にしたネックレスについていた小さな透明の石が、おばさんの涙のように見えた。


 おばさんは悪い人だった。僕らを騙した酷い人だった。

 でも今思えば、自分の命よりアリシアを買い戻すためのお金を必死で守っていたような気がしてならない。


 僕にとっては酷い人だったけど、ミランダおばさんはこの女にとっては『優しい母様』だったのだ。

 それを……。


 いらないのなら、僕が欲しかった。

 僕の『優しい母』として欲しかった。


 僕なら、この女みたいな恩知らずなことは絶対に言わない。

 心から慕ってどんな仕事も手伝った。


 一緒に仕事をして、ずっと笑い合っていたかった。 


 ふと見ると、兄様の頬を涙が伝っていた。

 僕と同じ気持ちなのかもしれない。


「馬鹿ねぇ」


 そう言って女は兄様の頭に手を置いた。


「いいのよ、泣かなくても。だって金貨45枚分なんて普通に働いてちゃ稼げないもの。

 非合法なことしてるんじゃないかって内心思ってた。

 あんな女殺されて当然よ。

 よりによって子供を非合法に奴隷商に売り渡していたなんてねぇ。はは……」


 アリシアは益々母親を罵った。


 どうしてあいつはミランダおばさんの気持ちがわからないのだ。

 他人の僕にもわかることなのに。


 確かに僕はおばさんを深く恨んだ。

 でも僕には『彼女の気持ち』がわかる。


 たくさんの人間をこの手にかけ……禁忌を破ってまで兄様を守ってきた僕には。


 おばさんにとって『この女』は悪魔に身を堕としてでも守らねばならない相手だったのだろう。

 その価値がこの女にあるとは、僕にはとうてい思えはしないけれど。



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