リオン編 シリウスという国6
腕を持ち上げ、鎖を眺める。
なんだこれは。
こんなモノで僕を捕らえた気になっているのだとしたら、救いようの無い馬鹿だ。
魔的処理もしていない鎖なんて、破壊するのにまばたき程もかからない。
あの偉そうに喋っている人間の体も、エドガーさんと同じくたいした強度ではない。
僕がその気になれば、あの男の命も体も一瞬で消し飛ぶ。
「…………あんたはその処世術とやらが、本当に正しいと思うんだな?」
男を殺そうとしたその時、兄様が低く呟いた。
「思うぜ? 力こそがこの世の真理だ。
弱い奴は踏みにじられるしかないんだよッ!」
男は弱き自分をかえりみず、傲慢に言い放った。
「……じゃあ、その真理に従って死んでください」
兄様は手首の鎖を指に巻きつけてこぶしを握ると、渾身の力で男の心臓にたたきつけた。
「ぐ……あぁ……」
小さな悲鳴を上げて男は絶命した。
ほらね。
普通の人間に『僕や兄様』を蹂躙する力などあるわけがない。
それも、こんな虫けらのような人間に。
兄様はすぐに男の腰にある鍵の束をはずして手にとり、僕たちの戒めを解いた。
「さあ、皆のも解いてやる!」
そう言うと、子供たちは怯えたように首を振った。
「なんだ。このままじゃ売られてしまうぞ!! それでもいいのか?」
兄様が再び聞いた。
「……だって。逃げたら家族に迷惑がかかるから……両親も幼い兄弟たちも飢えて死んでしまうから……」
一人の少年が涙をこぼしながら言った。
少年達は親に売られてきたのに、それでもその親を心配し続けているのだ。
彼らの言葉を聞くと、僕も少しだけ胸が痛む。
僕でさえおばさんに売られたことがこんなに悲しかったのに、あの子達は正真正銘、親に売られてここに来たのだ。その悲しみはいかばかりの事だろう。
でも本人たちに逃げる意思が無いのだから、もう僕たちにはどうしようもない。
兄様に感謝し一緒に行きたいと願うなら、僕だってこの可哀想な子供たちが逃げる手助けをするつもりはあったのに。
「行くぞ、リオン!」
「はい。兄様」
頷く僕だけを連れて、兄様は牢を出た。
……そうだね。
兄様には僕だけがいればいいのだ。
だってあの可哀想な子供達だって、いつかエドガーさんや宿のおばさんのように豹変するかもしれないのだから。




