リオン編 シリウスという国3
それから1週間、僕と兄様は洗濯掃除に明け暮れた。
外での仕事は難しいのではと覚悟していたけれど、神殿にいた頃よりずっとずっと楽だった。
それに何より、おばさんがとても親切で優しい。
あんなに忙しそうなのに、暇を見つけては僕に話しかけたり、色々と気遣って下さった。
作ってくださる食事は温かくておいしくて、僕は兄様の次におばさんのことを好きになった。
一週間たった夜、おばさんが僕と兄様の服をプレゼントだと言って持ってきて下さった。
僕達は着替えを一着しか持っておらず、雨が続くとずっと同じ服を着なければならない。
おばさんは、それを可哀想に思ってくれたのかもしれない。
「ああ、子供が遠慮なんかするんじゃないよ?
お給金も無いのに良く働いてくれたからね。おばさんからの、ほんの気持ちだよ」
手渡された服は手触りの良い、綺麗な色がついた服だった。
わぁ、嬉しいなっ!
兄様以外の方から『ぷれぜんと』をいただくなんて、生まれて初めてだ。
言われるままに着替えると、おばさんはとても喜んで下さった。
「ああ、思ったとおりよく似合うね!
ここに来たときは二人とも痩せこけてて可哀想だったけど、もうすっかり健康そうだ。
兄ちゃんの方は痣も取れて男前になったじゃないか」
目を細め、ニコニコと笑いながらおばさんが言う。
その姿を見ながら僕は、会ったことすらない『僕の母親』に思いをはせた。
兄様の母様と僕の母親は、別の人だ。
僕の母のことは兄様も知らないようで、一度話題に出た事があるだけ。
でも……兄様の母様である王妃様については何度か聞いたことがある。
王妃様も、おばさんみたいにとても優しい人だったそうだ。
もし、僕にも母という人がいたなら……こんな風だったろうか?
こんなふうに優しくしてくれて、僕が健康であることを喜んでくれただろうか?
お礼を言うとおばさんは「いいんだよ」と優しく笑い、良い匂いのする焼き菓子を一つずつ僕と兄様に握らせてくれた。
大好きな兄様と、母のような優しい人。
そんな二人と暮らせて、僕は本当に幸せだった。




