リオン編 シリウスという国1
何日も野宿を重ね、やっとのことでシリウス王国にたどり着くことが出来た。
兄様はよく異国にお出かけになられていたけれど、僕にとっては初めての国外。
緊張で身が引き締まる。
最初は優しげに見えた『お外』は自国でさえ恐ろしかった。
『友達』であったはずの優しいエドガーさんは、わけのわからないことを言って突然豹変し、兄様を殴り殺そうとさえした。
やはり外の世界は恐ろしい。
それがエルシオンより酷いとうわさに聞く『異国』であるなら、なおのこと恐ろしかった。
本当は、兄様とずっと森の中をさまよっていたかった。
森の中はとても心地がよい。木々は綺麗だし僕らを傷つけない。
持っていた食料はすべて食べつくしたけれど、朝露を飲み、葉っぱを食べればそれでことたりた。
『魔獣』は地下神殿に封じられている間、狼の血と命で魔力をつないできた。
しかし外界に出た今は違う。
結界も無く、大きく魔力を消費することの無い今なら、生命力あふれる森の大気からだけでも十分に力を取り入れることが出来る。
その魔獣と深く混じっている僕は、飲まず食わずであったとしても全く支障は無い。
でも兄様は違う。
きちんと食べて休まないと、弱って死んでしまう。
幸いシリウス王国についてすぐ、食事ができるところが見つかった。
でもそこはとても古びている。
何だか師が大嫌いだった『黒くて平べったい虫』がいっぱいいそうな予感がして恐る恐る入ったけれど、中は案外小綺麗にしてあった。
窓辺には野の花なども飾ってある。
僕らはそこで軽い食事を頼んだ。
ごくごくと水を飲む兄様は、とても嬉しそう。だから僕も嬉しい。
「ちょっとあんたたち、子供だけなのかい?」
人のごった返す食堂でパンとスープを食べていると、そこで働くおばさんが声をかけてきた。
優しそうなおばさんだった。
でもこの人だって、きっと『自分が大切なだけの人』に違いない。




