表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/451

リオン編   友達7

 僕は皆がいる方向とは逆……森の奥に、兄様の手を引いて行った。


 いくら兄様だってわかったはずだ。

 あんな場所に居ては、兄様の命が危うい。


 エドガーさんが突如豹変したように、他のエルシオンの民たちだって、いつ兄様を殺そうと動き出すか知れたものではない。


 兄様は危険をかえりみず、そしてあんなに無礼な魔獣に頭を下げてまで皆を助け出したのに……。


 クロス神官も代々の王も、多大な努力により臣民を守ってきた。

 でもエドガーさんはその恩など無かったかのように振る舞い、兄様のことを殺そうとした。


 僕のことも閉じ込められたまま、ただ奉仕して一生を終えるのが当然の『生贄』だと認識していた。


 友達なんて、所詮物語の中にだけ出てくる架空の存在なのかもしれない。

 言葉では『信じている』だのなんだの言っても、自分に都合が悪くなったら、殴り殺す。


 外の世界は本当に怖い。


 兄様はしばらく黙りこくっていたけれど、やっと口を開いた。

 

「……わかった。お前と行こう。

 でもその前に、これを火の番を代わってくれたご婦人に渡してもらえないだろうか。

 朝になったら、路銀として皆に配るようにって」


 兄様は今後の暮らしが貧しくなるであろうことを僕に詫びながら、肌に巻いていた小さな袋を取り出した。

 中には『さきん』というものが入っていて、これがあれば僕らは楽に暮らしていけたらしい。


 でもそれを失えば、兄様はたちまち困ることになるのだろう。

 わかっているのに……それを国民たちのために差し出した。


 兄様。あなたという人はどこまで優しいのか。


 まだ王位を継承していない兄様がご存知かどうか定かではないけれど、王族には生まれつき特定の呪文を唱えた時にだけ浮き出てくる『アースラ様の隠し印』がある。


 その力により『善の結界』の作用を全く受けない。

 術者や為政者が結界の影響を受けては仕事にならないからだ。


 だから兄様の『優しさ』や『想いの深さ』だけは昔から本物だ。

 今も昔も、変わることなくお優しい。


 でも、この国に兄様の情けを受ける資格のある者など居はしない。

 どんなに慈悲をかけても、また踏み台にされるだけだ。


 それでも僕は、兄様のお言いつけに従った。

 兄様があまりにつらそうな顔をなさったからだ。

 





『アースラ様の隠し印』の存在はエルは知っています。

地下神殿の扉を開けるために使った紋章がそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ