リオン編 友達2
ほのかに焚き火の炎が見えてくる。兄様の姿も。
「エドガー!!」
「……エ、エルシド王子ッ!!」
エドガーさんは髪を短くし、茶色に染めた兄様を一目見て叫んだ。
やはり兄様の高貴なお姿は『へんそう』ぐらいでは隠しようが無いらしい。
周りにいた者達は、その言葉を聞いてざわめき始める。
どうしようバレちゃった。
でもここに居るのは、アレス帝国から逃げてきたエルシオンの臣民だけ。
たとえバレたとしても、王子である兄様に危害を加える者など居ようはずも無い。
「ところで……なあエル王子。この子、本当にあんたの弟なのか?」
エドガーさんが兄様をまじまじと見つめる。
そうだった。
僕は兄様の許可をいただかないまま、勝手にエドガーさんに『弟』だと言ってしまったのだ。
その事を兄様はどう思ったろうか?
兄様の顔を窺う様に見た後、目を伏せた。
また故国を脱出する時のように『他人』として紹介されるかもしれない。
『弟なんかじゃない』って言われるかもしれない。
兄様の言葉を待つのは、とても恐ろしかった。
「……そうだよ。リオンって言うんだ。
わけあって今まで一緒に暮らせなかったけど、俺の大切な弟だ」
兄様は優しい声で、エドガーさんに僕の事を『弟』だと告げた。
僕は、ぱあぁっと顔を輝かせた。大好き兄様!!
一生ついていきますッ!!!!
でもエドガーさんは、ガックリと肩を落とした。
何か不都合でもあったのだろうか?
道中だって凄く凄く優しくしてくれたし……焚き火の炎で僕の顔を見た瞬間、
「可愛い! マジ天使!!!」
って絶叫してくれたのに。
「こんなに可愛いのに『妹』じゃないなんて……詐欺だ…………」
エドガーさんは涙ぐまんばかりに落ち込んだ。
どうやら彼は、僕のことを『弟』ではなく『妹』だと思いこんでいたようだ。
僕はちゃんと兄様の『弟』だって言ったのに、聞いてなかったのかなぁ?
『ずぼん』だってちゃんとはいていたのに、目が悪いのかなぁ?
でもそこまでガックリこなくても。
妹と弟の違いなんて、所詮『すかぁと』をはいているか『ずぼん』をはいているか程度の違いしかない。
それなのに。
「兄様……妹でないと世間ではこんなにまでガッカリされるものなのでしょうか?
そういえば兄様も妹姫をたいそう可愛がっておいででしたし……僕……弟でごめんなさい……」
悲しくなって瞳が潤む。
兄様も、エドガーさんみたいに本当は妹の方が良かったのかな?
もしそうなら、僕は『すかぁと』をはいてちゃんと妹になるのに。
よし。町に着いたら僕は『すかぁと』を手に入れて妹になるっ!!
固く決意したとたん、兄様が言った。
「おいこらエドガー。俺の大事な弟を泣かすな!!
よしよしリオン、俺は弟のお前を世界一大切に思っていてるからなっ!!」
そう言って兄様は僕の頭をなでて下さった。
そっか……。
兄様はやっぱり弟が良かったんだね。
じゃあエドガーさんには悪いけど、やっぱり僕は『弟』がいい。




