リオン編 友達1
「兄様! また一人見つけました!!
半径十キロル以内ではこれで最後です!!」
僕はにっこりと笑って兄様に報告する。
お役に立てることが本当に嬉しい。
脱走した奴隷たちのほとんどは、兄様の活躍により散りじりに逃げ去った。
でも一般の女子供は体力が無いらしい。
あまりにも兄様が心配するので、僕は捜索係をかってでた。
僕なら暗闇でも走れるし、魔力を使って奴隷たちの声やわずかな物音を聞き取る事が出来る。
私的に魔力を使うことは許されてないが『エルシオン国民』のために使うのだ。
問題は無いだろう。
魔力の源は魔獣。
勝者となった僕は、眠り続ける魔獣からいくらかの魔力を引き出せる。
だからそんな遠くの人のかすかな声さえ、魔力を集中すれば聞き取れる。
「連れて来ますから、兄様はここで待っていて下さいね!」
僕は月さえない真の闇に向かって駆け出していった。
もう何度目になるだろう。
でも疲れよりも、兄様のお役に立てることが嬉しかった。
しばらく走って見つけたのは、兄様より少し大柄な少年。
彼はどうやら兄様の友人らしい。
自分のことより行方知れずの王子……つまり兄様のことを心配していた。
名はエドガーというそうだ。
僕はこの人の名前などに興味は無かったのだが、不思議なことに聞きもしないのに名乗ってきた。
友人…………兄様の友達……かぁ。
そういえば兄様が就寝時に読んでくださった御本の中には『熱い友情の物語』が何冊かあった。
だから僕も『友』と言う言葉にほのかな憧れを抱いたものだった。
外の世界の人はまだちょぴり怖いけど、里の人たちは皆優しかったし『兄様のお友達』ならこの人も優しい良い人に違いない。
エドガーと名乗ったこの人は、声も態度もとても優しげだ。
僕ともお友達になってくれそうな気がする。
そうしたら、兄様と二人だけだとすぐ終わってしまうカードゲームを一緒にやってみたいなぁ。
2人でも楽しいけど、3人だったらきっともっと楽しいに違いない。
僕は思い切ってエドガーさんに『兄様の弟』なのだということを告白した。
するとエドガーさんは、物凄く驚いた顔をした。
そのことに、一瞬戸惑った。
クロス神官は市民にその正体を明かしてはいけないことになっている。
でも『今の僕』はもう、クロス神官ではない。
……いいよね……喋っちゃっても。
僕はちょっとドキドキしながらも『弟』という言葉を訂正しなかった。
エルシオンを脱出する時、兄様は城内の誰にも僕を『弟』だと言わなかった。
その時言った言葉の意味は半分もわからなかったけど『他人』として紹介されたことだけはわかった。
凄く凄く悲しかった。だから今度こそ……。
昨日誤字を教えてくださった方、評価を入れて下さった方、ありがとうございました♥




