リオン編 慟哭8
僕は全力を尽くして『にっこりと』『可愛らしく』『善良に』微笑んだ。
「魔獣を制した以上、もう僕は一人前の神官魔道士です。
正式継承を受ける20才の時点の力よりはかなり劣るでしょうが、兄様一人を守るぐらいの力は十分にあります。
これからは僕が兄様のお役に立ちます。何でもお申し付けくださいね」
言いつつもちろん、血塗られた両手は後ろに隠した。
それでもまだ兄様は、微妙な表情を浮かべたままだ。
どうやら里の子供たちがやっていた『笑ってごまかす』という高等戦術は僕には難しかったらしい。
でも、ここで諦めてはいけない。
「もう一度言いますけど、ヴァティールが言ったのは嘘ですから。
確かに祭壇に動物の生き血を捧げたり、聖布に撒いたりはしましたが、あれは確かに動物でした。
クロスⅦは国の民に危害を加える狼を供物に使っていました。
害獣も始末できるし一石二鳥です。
ヴァティールは血を好む魔獣ですので、魔力を枯渇させないためにも週に一度は生き血を捧げないといけないのです。
そうしないと魔力が足りなくなって、結界を維持できないから……」
そう!!
悪いのはアホでクソな、あの魔獣!!
魔獣が血なんて欲しがるからいけないのだ。
確かに、狼の生き血を使った儀式はしていた。
これは本当だし、害獣を贄に捧げることに問題があろうはずは無いからごまかす必要は無い。
ただ、狼ととてもよく似た外見の『犬』たちを里の人や兄様は可愛がっていたから、心証は悪いかもしれない。
でも兄様、『国を守るため』には仕方が無かったんです~!!
『お仕事』だからやっていたんです~っ!!!
もちろん『人間の血』なんか絶対使ってないです~っ!!!
そういう僕ですので、今回手につけてた血も人間のものなんかじゃないです~!!
……と、僕は言葉の端々で何げに強調しておいた。
今回だけは本当に人間の血を使ったけれど、そんなの言わなきゃわかるわけがない。
人間も狼も『血の色』は同じ赤だ。
「そ、そうか、動物……だった……んだよ……な。そうだよな、いくらなんでも……」
よしっ!! 勝った!!
僕はついに、誤魔化しきったのだ!!
心の中で万歳三唱をする。
糞魔獣のおかげでハラハラさせられたが、これで僕と兄様は元通りの仲良し兄弟に戻れるはずだ。
「……会いたかった、ずっとずっと会いたかったのです、兄様……。
ヴァティールの中で僕は……僕を心配してくださる兄様の声を聞きました!!」
そう言って――――僕はかわゆく兄様に抱きついた。




