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リオン編   慟哭6

 アースラ様もシヴァ様も人食なんかなさっていない。

 僕だってそうだ。


 確かに僕はずっと目隠しをしたままだったけど、生贄をさばくのは僕の役目だった。

 ちゃんとソレらに触れている。


 あんなに、モジャモジャと毛深い人間がいてたまるかっっ!! 

 いくら世間知らずな僕だって、それぐらいは知っている。


 湧き上がる怒りが最後の力となった。


 急激に呪文が組みあがっていく。

 まるで難しいパズルの最後の数ピースをはめるがごとく。


 捕らえたっ!!!

 魔獣の魂に、細い銀の魔縛が絡みつく。


「……っつ……ああっ!!」


 突如苦しみ始めた魔獣の背を兄様がさする。

 それがますます僕の怒りを掻き立てた。


 なんであんな糞魔獣が兄様に優しくされるのだ。

 兄様を守って戦った僕は、兄様に拒絶されて命を落としたのに。


 反撃してくる魔獣の魂をギリギリと締め上げて、息の根を止めるべく聖なる炎を練り上げる。

 魔獣は魂を炎に焼かれてもだえ苦しんでいる。


 さあ、死ね。死んでしまうがいい。

 今度こそ止めをさしてやる。


 魔道神官には『国を守るため』に魔獣が必要。

 でも、今の僕はもう――――魔道神官じゃない。


 兄様とただ平凡に生きていく僕に『魔獣』なんて必要ない。

 僕の潜在魔力はアースラ様に匹敵すると言う話だから『兄様一人』を守るなら、十分だろう。


 わざわざ魔獣を飼っておく必要など、もうないのだ。 


 魔獣は僕や兄様、それにアースラ様や始祖王シヴァ様まで愚弄した。

 欠片も遺さずこの世から消えるがいい。


 僕は聖炎で魔獣の魂を焼いた。

 しかし――――魔獣は死ななかった。


 代わりに魔獣の魂を通して『僕』にダメージが流れ込んでくる。


 ああ……魔獣と融合してしまった『僕』にはこれ以上、魔獣を傷つけることは出来ない。

 不死を賜った僕とつながっている『魔獣だけ』を滅する事は、はなから無理だったのだ。


 でも、ここまで魔獣を痛めつけることが出来たのなら、今の僕の力だけでも正式なクロス神官に近い魔縛が出来る。


 最後の力を振り絞って魔縛を完成させた。

 それと同時に主人格が入れ替わる。

 

 ああこれで……。

 これでやっと大好きな兄様の元に戻れる。


 兄様……兄様っ!!

 

 さあ、今こそ僕の名を呼んでくださ……


「しっかりしろっ、ヴァティールッ!!!」


 ………………何で?

 

 何で兄様?


 何でこの良い場面で感動的に僕の名前を呼んで下さらないのですか……。


 何でよりによって『魔獣』の名前を呼ぶのですか………………。


「……違います兄様……そんな名前で僕を呼ばないで……」


 僕はちょっと恨みがましく返事した。

 こんなはずじゃなかったのに。


 自分の命を魔獣に捧げてまで『僕の屍』を取り戻そうとしてくださった兄様なのだ。

 感動の再会場面ではお互いの名を呼び合い、兄弟仲良くひしっと抱しめあうはずだった。


 ……そのために僕は凄く頑張ったのに。

 

 

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