リオン編 救い3
しかし兄にそれが分かったところで、僕はもう、自分の意思では指一本動かすことが出来ない。
魔獣は思うままに僕の体を使うだろう。
「ふふん。300年間もワタシを王家のためにタダ働きさせておいて、その上こんなちっぽけな体さえよこさない気か?
人間というものは、信じられないごうつくばりだ」
魔獣ヴァティールが尊き兄様をあざけった。
僕の視界が怒りで真っ赤に染まってゆく。
許せない。
僕の体を使って、大好きな兄様にそんなことを言うなんて!!
しかし兄様は怒ることもなく魔獣に言った。
「それは謝る。俺の先祖がしたこととはいえ、申し訳なかった。
代わりに俺の体をやるから『リオン』を返してくれ。
せめて人間として死なせてやりたいんだ。
……リオンの体を返してくれるなら、俺の命などいらない!!」
兄様が……あの気高い兄様が、僕のために魔獣に自らの体を差し出し、情けを乞うていた。
僕が魔獣を仕留めることに失敗し、体を取られたばかりに……。
汚き魔獣は当然のように兄の言葉につけこんだ。
兄様の尊きお体を我が物にせんと動き出したのだ。
アースラ様の御遺文のとおりだった。
あの『おぞましい魔獣』だけは、魔縛して深く眠らせておかなければ。
その気になれば奴は『エルシオン王国』だけでなく、全世界を焼き尽くすことも出来るバケモノだ。
完全なる『善性』と『理性』を持つ神官魔道士によって管理されねば、世に災いをもたらすだけの存在となる。
ああアースラ様!!
偉大で気高きアースラ様!!
どうか僕に力をお貸しください。
願いが叶えられるなら、何と引換えても惜しくはありません!!
……そう思ったとたん頭が割れるように痛くなった。




