リオン編 異変2
兄様の圧勝だ。
体格の差が相当があるとはいえ、元々の技量が違いすぎる。
しかし兄様は敵兵の叫び声を聞いたとたん、呆然として動かなくなってしまった。
いったい、どうしたというのだろう?
負傷した敵を放置するのは『良くないこと』だ。
どうせ殺さねばならない命であるなら、弄んだりはせずに早々に止めをさして『神の国』へと送ってやらねばならない。
心優しきアースラ様は……そう教義にお遺しになられていた。
たとえ虫けらの如きアレス兵であっても、多分、適用範囲に入る。
また、本当の虫の方も適用範囲に入っていたようで、クロスⅦはいつも一撃の元に叩き殺していた。
『敵は速やかに殺す』
これを当然のことと思って育ってきたが、外の世界では違うのだろうか?
悩んでいる間にも、アレス兵は負傷した腕を押さえて転げまわっていた。
長く生きているくせに『このぐらいのこと』で大げさに騒ぎすぎだなぁ……と思わなくもないが、外の世界の兵士は僕らクロス神官ほどの忍耐は持ち合わせていないのだろう。
ならば、速やかに殺してやるのがやはり『優しさ』というものであろうか?
どうする僕……。
痛みに苦しむ敵兵を放っておくのは、元神官として容認し難い。
しかし十分な力量を持つ兄様を押しのけてまで『敵兵を僕が討つ』というのも、何だか違う気がする。
差し出たまねをするべきか、しないでおくべきか。
一瞬悩んだが、すぐにそれどころじゃない事に気がついた。




