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2.おとぎの国に住む王子

 エドワードは王妃である母上の兄である。

 そのため、俺のことも『仕えるべき王子』というより『実の子供』か『年の離れた弟』のように思っている節がある。実際ちょっと容姿が似てもいるし、俺も奴を『伯父』というよりは『兄』みたいに思っているからお互い様だけど。


「なぁエドワード、昨日俺の花嫁候補にと送られてきたルガール王国の皇女の肖像画なんだけど、やっぱり母上には負けるよなぁ?」


「そんなことばかりおっしゃっているから、王子のマザコン病は他国にまで知れ渡ってしまっているのです。

 11歳にもなって情けない……」


 エドワードが大げさに嘆いてみせる。


「でも母上より美しい女性なんて、いやしないよ。

 ちょっと体は弱いけど、その儚げなところが守ってあげたい風情だし。

 エドワードもそう思うだろ?」


「……まあ、妹が美人なのは間違いないですけどね」


 俺の事をとやかく言う割には、自分も超絶シスコンのエドワードだ。その辺は素直に頷く。


 なにしろ母上は、本当に美しい。

 流れるように豊かな金糸の髪に湖水のような瞳。優雅な物腰には最上級の香のような品が有り、優しく柔らかい声も心地よい。俺は父と揃いの朱金の瞳だが出来るなら全部母に似たかった。

 こう言うと、またエドワードにマザコン扱いされてしまうが。


「美姫で有名なクリスタル姫も、アヤネシア姫もたいした事なかったし。

 セシーナ姫に至っては、送られてきた肖像画とはもう全然別人だったし。

 あ~あエドワード、早く結婚してくれよ。もう30過ぎたのに何で結婚しないんだ?

 エドワードのところの娘だったら、凄っごい美人が生まれそうなのになぁぁ~!」


 ここ数年、何故か『年上の姫』とばかり見合いさせられていた俺は、いたずらっぽくエドワードを見た。

 すると奴は……じろりと俺を睨んだ。


「何をたわけたことをおっしゃいますか。

 そもそもこの国には、始祖王が定められた数々の玉条があります。

 皇太子である貴方は他国の……それも『貧しい小国の姫』しか娶れません。

 王位を持たない私に娘が出来たとしても、王子のお相手にはなりませんし、すぐ私に娘が出来たとて、エルシド王子とは12歳も離れることになります。

 晴れてマザコンの汚名を返上したとしても、今度はロリコンという最悪の汚名をかぶることになります。

 王子はそれをお望みなのでしょうか?」


 鬼の教育係は、他国出身とは思えぬ知識量の一端をひけらかしつつ、俺を見てふふんと笑った。


「はぁ~。冗談だって。

 だけど何で他国の、それも『貧しい国の姫』じゃないといけないんだ?」


「不遜ながら申し上げますと、エルシド王子様や代々の王が苦労知らずだからですよ。

 この大国エルシオンと違って私の出身国リードランドは、それはそれは貧しい国でした。

 国が貧しいがゆえに人々はわずかな利権をめぐって争いが絶えず、おまけに作物に有害な害虫が大発生するわ、洪水は起こりやすいわ。

 ……兄妹は8人程おりましたが、疫病も数度凄いのがはやりまして 、残ったのはわずか3人です」


 エドワードが深いため息をつきながら続ける。


「妹がこの国に嫁したため、母国はエルシオン王国から治水工事や農業指導などの援助を受けることが出来るようになりました。

 庶民への衛生指導も行き届くようになり、疫病が起こったとしても広がりにくくもなりました。

 しかし貧しい国というのは、それはもう悲惨なものなのです」


「うんまあ……そうだよな。ごめん。無神経なこと言っちゃって。

 そういうのを目の当たりにしてないから、俺って考えが甘いよなぁ」


 うなだれる俺に、エドワードは更なる追撃の手を緩めない。


「そうですとも!!

 ただ、エルシオンのような豊かな大国であっても、贅沢を好む王を戴けば国を傾けるか他国を侵略して富を奪うことのみを考える悪魔の国となります。

 私どもは物心ついたころから、そういう大国からの侵略を恐れてまいりました。

 妹である王妃様も同じですよ。

 そういう苦労を重ねてきたパートナーを持つことによって、大国エルシオンの王が小国の心を知り、またそういう国を助けつつ同盟の輪を広げ、奢ることなく国を富ませていく。

 そういう事を『始祖王シヴァ様』と『建国の能臣アースラ様』は望まれたのです」


 奴は長く美しい指でこぶしを作り、力説する。

 基本的に説教と、くどくどしい長話が大好きなのだ。


「ふ~ん……確かにこの国はもう300年近く平和を保っているし、母上はこんな大国に嫁ぎながら、今でもとても質素でお優しい方でいらっしゃる。

 やっぱり結婚するなら母上みたいな方がいいよなぁ?

 これがあの大国アレスあたりの姫なら、いくら美女でも鼻持ちならないだろうし」


 俺は、とある美しい姫の事を思い浮かべながら言った。

 姫と言っても、俺よりう~~んと年上だが。


「アレス帝国・第一皇女のグレーシス様のことですか?」


 エドワードが即答する。

 アレス帝国はエルシオン王国に匹敵する大国だ。


 半世紀前まではウチの属国の一つでしかなかったが、ウチから相当の距離があるのをいいことに勝手に独立し、平和主義のお祖父様はそれを咎めもしなかったらしい。


 ……以来アレス帝国は調子に乗りまくり、戦争三昧しながら領土を広げていって今に至る。

 

「アレスのグレーシス様は大変な美女と伺ってますが、御気性はとても激しいようですね。

 昔はともかく、あそこは今や大国ですし、我が国との関係も良いとは言えません。なのであの姫は婚約者とはなりえないでしょうが、その他の国の姫であっても『美人』はそれなりに性格がきつかったり、難があったりするものなのです。

 理想ばかり追い求めず、そろそろ年貢をお納めになってはいかがですか?」


 自分が当事者ではない美しい独身の伯父は、無責任に笑顔で言い放った。

 まったく……人事だと思って……。


 ウチの国は他とは違い、娶れる妃は『たった一人』だけ。

 あとで『しまった』と思っても、離婚も許されずに一生添い遂げなければならない。

 そんなに簡単に決められるかよ。


「でもエドワード……いくら美女でも性格の悪い年増は嫌だし…………俺、ヴィーとでも結婚しようかなァ?」


 そう言うと、奴は白い目で俺を見た。


「何ですか。王子はマザコン、シスコンに続いてロリコンを極めて変態三冠王でも狙うおつもりでいらっしゃるのですか?

 他国はともかく『わが国の法律』では妹姫様とは結婚出来ませんよ?」


「あったりまえだろ!!

 だいたいヴィーは赤ちゃんだし。シスコンの変態はお前だし。

 ちょっと言ってみただけなのに、エドワードはすぐ言葉尻を捕らえてギャーギャー言うんだから嫌になるよなー」


 少しむくれて見せるとエドワードは「あはは」と笑った。



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