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リオン編   鳥籠の外1

 クロスⅦを殺した僕は、結局何の咎めも受けなかった。


 兄様は、優しい兄様のままだった。

 恐ろしい罪を犯した僕を許し、守って下さった。


 やはり『僕の王』は優しい方なのだ。


 それだけではなく、僕を色のいっぱいある兄様のお部屋に連れて行き、寝る時は、僕を同じベッドに招き入れて下さった。

 広く豪華なベッドは温かくふわふわで、兄様は眠る前には必ず『僕のために』絵の多いワクワクするような御本を読んでも下さる。


 柔らかい兄様の声は耳に優しくて、いつまでも聞いていたい。

 それなのに、兄の体温を感じるうちにいつの間にか、ぐっすりと眠ってしまう。


 兄様が一緒にいて下さる時だけは、僕はつらいこと、悲しいこと、すべてを忘れられた。


 朝が来ると兄様は部屋からお出になってしまうけれど、その間は兄様に頂いたクマノヌイグルミを抱きしめて耐えた。

 目をつぶると、クロスⅦの血まみれの姿がどうしても浮かんでしまうのだ。


 クロスⅦを殺した時、僕は目隠しをしたままだったから……実際にはその姿を見ているわけではない。


 でも美しくも凄惨なその幻影は、鮮やかに僕の脳内に現れて僕をじっと見つめ続ける。それが、とても恐ろしかったのだ。


 嬉しいことも、いっぱいあった。


 兄様が亡くなりでもしない限り、けっしてお目にかかることは無いだろうと思っていた『妹姫』ヴィアリリス様にお会いすることが出来たのだ。


 僕は『幼児』というものを見たことが無い。

 でもヴィアリリス様は小さくて柔らかくて、とても甘い香りがした。


 本当に『可愛い』


 僕は二年もたってから、やっと『可愛い』の意味を理解した。


 兄様は僕に向かってよく『可愛い』という言葉を発っせられるのだが、僕にはこの言葉の意味がわかりかねて……ずっと困っていた。


 なにせ神殿の辞書や書籍には一切載っていないし、サンプルも一例だけ。


 せめてサンプルが数例あれば、言葉の意味を推測することが可能だったけど、僕に向けられるたった一例だけでその抽象的な言葉を推測する事は困難を極めたのだ。


 でも、これでやっと知っているフリをしなくてもよくなる。

 年下の小さい人間を見て、ほわんと心が温かくなる現象のことをきっと『可愛い』というのだ。

 

 そしてこれが『女の子』というものらしい。

 確かに小さいながら『すかぁと』とやらをはいている。


 しかし『男の子』であるらしい僕とどこがどう違うのか、今一つはっきりとわからない。


 ……まあいいか。

 

 服装からの見分け方はわかったし、僕はもう目隠しをして暮らさなくてもよくなった。だから、たいした問題ではない。


 それより気にしなくちゃいけないのは、今後のことだ。

 僕と兄様は、もうすぐ国を出る。


 ごめんねヴィアリリス様。ずっと守ってあげられなくて。

 兄様に勧められて腕に抱いた、小さな姫に目を落とす。

 姫は僕と目が合うと、それは嬉しそうに微笑んだ。


 どうか、元気で幸せな姫として育っていってね。僕の可愛い妹姫。

 本当は、兄様が僕にしてくださったように、僕だって妹姫を可愛がってあげたかった。

 けれど、それはもう叶わない。


 クロス神官が守らないこの国がどうなってしまうのか――――――。

 考えると、とても恐ろしかった。

 かといって、このまま城に留まることは出来ない。

 クロスⅦの事が王にばれたら、殺されるに違いない。


 僕だけでなく、命よりも大切な兄様さえも。


 それなら無駄に死ぬより、兄様の言うことを聞いて別の地で暮らすほうが良いに決まっている。


 僕は小さな小さな妹姫に心で詫びながら、そのふわふわな髪を撫で続けた。


 

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