リオン編 決別4
僕は氷室を出てからも、長い間呆然と座り込んでいた。
やらなくてはいけない事はたくさんあるのに。
まず、血にまみれたこの体を清めて……新しい神官服を着て……クロスⅦの代わりに祈らねば。この国を守らねば。
『善の結界』を張る祈りは、祭壇を経由してさえかなり精神を疲弊させる。
今までは、そのほとんどをクロスⅦが受け持っていた。
でもクロスⅦは、もういない。
だから僕が代わりに祈ならければ……そう思うのに、体が動かない。
そのままどれほど放心していただろう。
神殿内は昼夜の区別はつきにくく、僕自身も目隠しをしているので時間の感覚がよくわからない。
クロスⅦがいらしたのなら、神殿内の火時計を読み取って僕に教えて下さるけれど、もう師は居ない。
そうやって座り込んだまま時を過ごしていると、不意に扉の開く音が聞こえた。
きっと――――――兄様がいらしたのだ。
一瞬は喜びに笑むけれど、すぐに我に返った。
……どうしよう。こんなに血まみれでは、もう隠しようも無い。
いくら兄様を守るためとは言え、何の咎もないクロスⅦを殺してしまった。
僕はこれからどうなるのだろう。
兄様は僕を叱るだろうか?
見捨てるだろうか?
罰を与えるだろうか?
……でも、兄様はこれまでどんなに僕が馬鹿であっても、けっして見捨てたりはなさらなかった。
それに僕は『兄様を助けるため』にクロスⅦを殺したのだ。
きっと、わかってくださるはず。
僕は兄様に助けを求めるために、よろよろと立ち上がった。




