リオン編 決別3
僕は兄を守るために、師であるクロスⅦを討ってしまった。
とても悲しいが、後悔はない。
クロスⅦがそうだったように、僕は『僕の王』を守ることだけを教わってきたのだから。
ううん違う。多分そうじゃなくて、王だとかそういうことに関係なく、僕はただ『兄様』を守りたかったのだ。
しばらく座り込んだあと、僕はクロスⅦを儀式の供物……つまり血を抜き取られた狼たちの死体を一時的に貯蔵しておくための氷室に運んだ。
周りは零下の気温。
すぐにこの方の体は凍り付いてしまうだろう。
その前に、クロスⅦの顔をぬぐって美しく清め、腕を祈りの形に組んだ。
葬儀を行うためだ。
神官である僕は、葬儀の執り行い方もすでに習っていた。
外の世界に出ることのない僕らだけど、先代のクロス神官が亡くなった時は葬儀を執り行い、その魂を天に送る。
参列者は次世代のクロス神官のみ。
『外』の世界では大勢の人たちが集まり、その死を悼むと兄様からお聞きしたけれど、この地下神殿には『人』は僕と師しかいない。
だから、僕が百人分悼むことにした。
定められた手順に従って、力ある言葉を唱えていく。
どうぞ師が安らかに眠れますように……そう心から願いつつ祈りを捧げる。
この儀の執り行い方を習ったのは、ほんの半月前。
そのときは、こんなに早くその機会が来るなんて、夢にも思っていなかった。
目の前の師に改めて顔を向ける。
そうしたって、僕は目隠しをしているので見えるわけではないけれど。
クロスⅦは、とても美しい方だった。
長い銀髪をひらめかせて姿勢正しく歩く姿は、神書に出てくる絵画のようであり、僕はクロスⅦの美しい姿を見るのが大好きだった。
今だって、きっととても美しいままに違いない。
でも、僕はもう二度と……この方が生きて動く姿を見ることはない。