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リオン編   決別1

 その年の春。

 兄様は父様と共に国外に行かれ、13日間も城を留守になさる事となった。


 これまでにもそういうことはあったが、今回は特別長い。

 あと3日も兄様に会うことが出来ない。


 僕は寂しくてたまらなかった。


 今頃兄様は、どんなことをなさっているのだろう?

 外国どころか、地下神殿からさえ出たことのない僕には、いつも兄様のお話の半分すら理解することは出来ない。


 アオいソラってどんななの?


 ハナってそんなに美しいの?


 見たことがないから、よくわからない。

 

 でも一つだけ、はっきりとわかることがある。

 兄様は城外に出られたら必ず、何か『オミヤゲ』を買ってきてくださるのだ。


 形の残るものはクロスⅦにバレるので受け取れないから、それは大抵、小さくて美味しい食べ物となる。


 もしかしたら兄様は今、僕のためのオミヤゲを選んで下さっているのかな?

 今度はどんな『オカシ』を持ってきて下さるのだろう。


 そのことを考えると、つい口元が笑みの形に引き結ばれてしまう。

 でも次の瞬間には現実に舞いもどる。


 寂しい。とても寂しい。兄様に会えない事がこんなにも寂しい。


 この『寂しい』という感情は、『嬉しい』などと一緒に兄様からもたらされたものだった。


 僕が物心ついた時にはもう、クロスⅦと二人きり。

 うっすらと先代のクロスⅥの記憶もあるのだが、具体的なことはほとんど覚えていない。


 だから、誰かと離ればなれになって寂しいなんて、初めての経験なのだ。


 もちろん僕は半人前とはいえ『未来の王』たる兄様を支えるクロス神官。

 早く帰ってきてほしい……なんて、わがままを口にすることはない。


 でも寂しくて寂しくて、涙が零れそうだった。


 そうだアレを……。

 僕は勉学の手をひと時止めて、机の引き出しの奥を探った。


 そこには兄様から頂いた異国の飴が入っている。

 すぐに食べて、包み紙も焼いてしまうつもりだったけど、僕にはそれが出来なかった。


 飴の包み紙はきらきらと不思議な色合いで輝いていて、美しい。

 受け取ったときは目隠しをしていたので色までは見えなかったけど、勉強時は目隠しをはずしてもらえる。


 クロスⅦがいない間に盗み見たそれは――――――僕がこの世で見たどれよりも美しかった。


 僕は包み紙を注意深く手探りで解いて、そっと飴を口に含んだ。

 それはとても甘くて僕を幸せにした。


 でも、しばらくすると飴はすべて溶けてしまって、また現実に引き戻された。


 早くこの包み紙を焼いてしまわねば。

 もうすぐクロスⅦが奥の間での祈りを終える。


 こんな危ないものをいつまでも持っていたら、いつかクロスⅦに発見されるかもしれない。

 でも兄様から頂いた『こんな美しいもの』を焼いてしまうなんて……。


 結局僕は包み紙を焼くことは出来なかった。

 そしてその後の悲劇への道へと繋がった。

 

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