リオン編 壊れた国の少年5
絶望したそのとき、兄の腕が僕を包んだ。
強く。強く。
びっくりして見上げると、ぽたぽたと温かい液体が僕の顔にかかった。
これは知っている。『涙』という液体だ。
つらかったり、悲しかったりするときに、生体反応として目からこぼれる液体。
それが『涙』
――――やっぱり馬鹿だと思われたのだ。
どうしようもない、役立たずのクズだと思われたのだ。
王を補佐するべきクロス神官候補生は、国民の中で『最も優秀』でなければならない。
それが、こんな『とてつもない馬鹿』だとわかってしまったのだ。
そりゃ涙もこぼれるよね。絶望のどん底に落ちるよね……。
でも、兄の腕の中はとても暖かだった。
とくんとくんと音が聞こえる。
あれは位置から推測すると、多分心臓の音。
心臓は命を繋ぐのにとても大切な器官で、仕留めた狼の心音を確かめることなら何度かあった。
でも、生きている人の奏でる心音は、何と心地が良いのだろう。
こうやって間近で聞くのは初めてのはずなのに、なぜかとても懐かしい。
頭がぼぉっと霞んでくるような、不思議な気分になるのだ。
「あの……兄様って……とても暖かいのですね。
僕も兄様に、……ぎゅっとしてもいいですか……?」
気がつくと僕は、世にも厚かましいことを口走っていた。
でも兄様は嫌だろうな。
こんな『馬鹿な弟』の事なんか、さっさと忘れてしまいたいんじゃないだろうか?
不安と恥ずかしさに涙を浮かべたそのとき、ゆっくりと頷く気配がした。
うそ……。
僕なんかが兄様のことをぎゅってしていいの?
僕不安だったけど、僕は恐る恐る兄に腕を伸ばした。