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滅びの国の王子と魔獣 本編+外伝13作 最終外伝『だから、幸せに』完結  作者: 結城 
リオン編   壊れた国の少年(外伝となります)
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リオン編   壊れた国の少年3

 壁の外に不思議な気配を感じたのは、9歳の誕生日を少し過ぎた頃だった。


 この白い部屋で、いつものように目隠しをして的を落とす訓練をしていた僕は、動きを止めて耳を澄ました。

 

 いったい、この気配は何なのだろう?


 クロスⅦではない。

 多分王でもない。


 王はいつも手続きを踏んだ上で、クロスⅦにだけお会いになる。

 では――――――誰なのだろう……?


 天井近くに張り巡らされた白いロープから、音もなく飛び降りる。

 謎の気配が気になったからだ。


 そのとき、けっして開かないはずの扉がゆっくりとスライドを始めた。

 僕にとってそれは、天地がひっくり返るほどの出来事だった。


 この扉が開くのは11年後のはず。

 僕が20歳となり、正式にクロスⅧとなったとき初めて開かれるはずなのだ。


 だから、今開かれた扉から入ってくるのは『不法な侵入者』ということになる。


 怖い。


 どうしよう。


 いや、怖がっては……いけない。

 僕はいずれ全ての力を受け継ぎ『王の守護者』となるのだから。


 まずはきちんと落ち着こう。

 こういう時どうすればいいか、僕はクロスⅦに教わってきた。


 深呼吸を一回して、侵入者の背後に回りこめるよう気配を絶つ。

 そうして、扉のすぐ横で身構えた。


 現れたのは、思ったよりもずっと小柄な侵入者。


 僕はほとんどの時間を目隠しをして過ごしているから、見えるわけじゃないけれど、空気の抵抗が少ないし靴音も軽い。

 これは話に聞く『子供』という区分の人間なのかもしれない。


 ……なら、強敵だ。

 

 9歳の『子供』である僕は、週に1度、部屋に放された9匹の狼と戦う。


 狼は代々の王やクロス神官が守ってきた『エルシオン臣民』を害する邪悪な生き物だ。

 だからそれを修練の一環として殺し、魔獣への贄として使っている。


 僕が幼い頃、その役目はクロスⅦのものだった。

 けれど7歳を過ぎた頃から僕の役目となった。


 最初は手間取ったが、今では目隠しをしたままでも、ほぼ瞬殺だ。


 殺し方は様々だが、どれも苦しめるようなやり方ではない。

 狼たちは皆、自分が死んだことすらわからないままだろう。


 『子供』である僕は、そうやって育ってきた。

 色んな課題をこなしつつ、必死で自分を高めてきた。


 侵入者であるこの『子供』も、決して開くことのない扉を易々と開けるぐらいだから、僕と同等か、それ以上の修練を積んできたに違いない。


 さらに注意深く気配を探る。

 侵入者の身長は僕より少し高いようだった。

 空気の動きから細身であることもわかる。


 生まれて初めて出会う、外の世界から来た『人間』

 戦闘力は相当高いに違いない。


 クロスⅦに助けを求めたかったが、もう間に合わない。

 相手に気づかれてしまうからだ。


 僕は息をつめて侵入者を待った。


 しかし侵入者は僕が思っていたよりずっと無防備で、簡単に後ろを取ることが出来た。


 まず第1段階目は合格。

 きっと師にも褒めていただけるに違いない。


 次に魔剣エラジーを突きつけながら、所属と名前を問う。

 かつてクロスⅦに教えられた通りに。


 答えられないなら、殺してしまえばいい。


 地下神殿は国にとって『守りの要』

 なん人たりとも近づくことは許されないし、その存在を知られたなら、最後には処分しなければならないのだから、今殺したところで特に問題にはならないのだ。


 しかし侵入者の返答を聞いて、僕は取り乱した。


 この方こそが……僕が生涯をかけて守り抜き、命尽きるまで忠誠を捧げるべき『僕の王』だったのだ。


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