リオン編 壊れた国の少年2
9歳の誕生日を迎えた日、僕はありえないような経験をした。
「お前が仕えることになる『お前の王』からのプレゼントだ。
名は……クマノヌイグルミ……と言うらしい。
心して受け取り、その慈悲に感謝するように」
師が、いつもの淡々とした口調で言う。
目隠しを外してもらった僕の目に、クロスⅦのサラサラと揺れる長い銀の髪がまず映った。
その次に、師の手のひらにある小さな物体に目をやる。
これが、ぷれぜんと?
それは初めて聞く言葉。
今まで読んできた、神殿の本などの中にも書かれてはいなかったように思う。
兄であるエルシド様が下さったという、小さな小さなそれ。
「ク、マ、ノ、ヌ、イ、グ、ル、ミ……」
僕はそのフワフワしたものの名前をそっと呟いてみた。
外から持ち込まれた品を触るのは、これが初めて。
もちろん食事とか祭壇に捧げる供物などは外から持ち込まれたけれど、そういう『生きていくのに必要な物』や『官職にかかわるもの』ではない物など、僕は見たことがない。
もっと言うなら、外の世界にそういうものが存在していることすら知らなかった。
なのでそれを、恐る恐る受け取った。
『クマノヌイグルミ』はとても小さかったけれど、触れると見た目通りに柔らかく、ほのかに温かい気さえする。
それは不思議なことに、僕の心まで温めた。
一緒に暮らしている僕の師・クロスⅦは、背が高い『大人』の神官だ。
その力は僕と違い、すでに完成されている。
色は違うけど、僕と同様に腰まである長い髪。
そして僕と同じ、王家独特の金色の瞳。
先代の王の子供である師の姿はとても美しい。
魔力は驚くほど高く、結界を操る力は、もはやアースラ様にさえ匹敵する。
万が一他国と戦争になったとしても、体内に封じた『魔獣』の力を使って、いとも容易く敵を制圧なさることだろう。
師は身につけた高き能力を全て8代目国王――――つまり『現国王シーザ様』に捧げ、お仕えしていらっしゃる。
聡明なアースラ様は、代々の王の助けとなる強力な神官魔道士を時代ごとに1名定めることをお決めになられた。
次の王となられるエルシド兄様には、師と同じように『クロスⅧ』となった『僕』がお仕えすることとなるだろう。
外の世界は恐ろしいと聞く。
それでも、外で暮らす王が善政を敷き、地下神殿で祈る神官魔道士が人々の善性を極限まで引き出す結界を張り続けることにより、どこの国にも成すことが出来ないほどの平和で、清らかな国を存続させ続けることが出来るらしい。
僕が20歳となり、正式に『クロスⅧ』に任じられれば僕も師のように、王と国のお役に立つ事が出来るだろう。
たとえ神殿内から一歩も出る事が出来ず、兄である王のお姿を見る事すら稀であったとしても、王のお側近くにいる者たちよりずっとずっと役に立つ事が出来る。それは心踊るような話だった。
僕はまだ見ぬ兄のことをよく考えた。
どんなお方なのだろう?
お美しく賢く、慈愛に満ちたすばらしい王子だとお聞きしてはいるが、あのクロスⅦがそうおっしゃるのだから、きっと『本当』なのだろう。
僕は兄にお会いし、自らの高き忠誠心と修行の成果を見ていただく日を心待ちにしながら、修行に励み続けた。
活動報告にてリオン編スタート報告&アンケート結果発表しています。
よろしかったらどうぞ~!
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