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13.名前のない少年

 諸国との小競り合いはあるといえばあるが、少なくとも王子が先陣を切って戦わねばならないような酷い戦は、俺の知る限り全く無い。


 もしかして父上は……邪魔なこの『もう一人の王子』を他国向けの傭兵にでも売ってしまう気ではないのだろうか?


 普段は誰にでもお優しい父上なのに、この子にだけは非情を貫いている。

 それは出自に関係することなのかもしれないし、母上を慮っての事かもしれない。


 でもちょっと異常すぎる。

 もしかして……。


「なあ、リオン。その眼……どうしていつも包帯をしているんだ?」


「眼ですか? 本当は兄様の顔が凄く見たいのですけど、外せないのです」


 はらりと包帯を取ったその下には、更にきっちりとはめ込まれ、鍵までつけられた皮の目隠しがあった。

 もしやここから逃げられないよう、目は潰されたのではないかと危惧していた。


 そこまでではなかったようでホッとしたが、俺はリオンが目隠しを取ったところを見たことがない。

 なら、結局は潰されたのと同じことなのだ。


「……どうしてこんな」


 目隠しにそっと指で触れる。

 皮でできたそれは、とても冷たく感じた。


「さあ? 考えたこともないのでわかりません。でも、神官魔道士とは見えざるものを見、感じる存在です。多分そういう事と関係しているのではないしょうか。

 神学や魔術書の勉強の時だけは外してもらえますし、もう気配や音を読めるようになったので、そんなに不自由はないのですよ?」


 外の世界を知らない子供は、こんな事はなんでもないという風に笑って見せた。


 多分リオンにとってはつらくもなんともない……神官候補生としてごく当然な務めなのだろう。


 でも俺は心が痛んでしょうがなかった。

 父を同じくする正当な王子なのに、何という待遇の差なのだろうか。


 せめてもの罪滅ぼしに……。


 同じ王子として生まれながら、ぬくぬくと育ってきた俺が出来る最大の贖罪をこいつにしてやりたくて、ただ抱きしめた。


 でもきっとこの小さな弟は……俺が流した涙を見ることらすら一生ないのだ。




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