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4.その日

 その瞬間、白い花束とドレスに鮮血が散った。


 アリシアが胸を押さえて、ゆっくりと倒れていく。

 俺はあわてて、アリシアを受け止めた。


 背後では、一歩進む足音がする。

 振り返ればそこに、金の瞳の少年が、俺を見つめて立っていた。


「……酷いです……兄様。

 あんなに忘れないでって言ったのに……もう……僕の事なんか、すっかり忘れてしまったのですね」


 ヴァティール……いや、『リオン』は感情のこもらぬ口調で、ささやくようにつぶやいた。

 そして、アリシアの手から落ちた小さなぬいぐるみを拾い上げた。


「これも僕のなのに……兄様は僕のなのに。僕がっ……命がけで守ったのに!!!」


 アリシアを貫いた魔剣を、リオンは再び振り上げた。


「皆、皆殺してやる!! 

 恩知らずなアルフレッド王も、ウルフも、そこの冠をかぶった知らない女も!!!

 僕にとって、元々兄様だけが『人』だったんだ!! 他は要らない!!!

 兄様以外、皆死ねばいいんだ!!!!!」


 目を吊り上げて哄笑し、血まみれの魔剣を掲げるリオンのその姿のほうこそが『魔獣』と呼べるものだった。


「リオン……やめてくれ、リオン……!!」


 どんなに叫んでも、リオンは俺の言葉に耳を貸さなかった。


「うるさい!! 兄様も僕を裏切った!!!

 誰一人、僕を想ってくれなかった!!

 使うだけ使って……覚えて……いてさえ……皆僕を忘れて……楽しく笑って……僕だけ、独り……」


 リオンの言葉からは、深い悲しみが伝わってくる。


 命がけで戦い、その果てに願ったのは……とても小さな望み、一つ。

 しかし永い眠りから覚めてみれば、皆は何事も無かったかのようにリオンを忘れ、楽しそうに笑っていた。


 そう――――――思ったに違いない。


 でも違う。

 俺は、リオンを忘れてなどいない。


 一瞬たりとも。


「そんなことは無いっ!!

 俺はお前の事を覚えていた!!

 誰よりも大切だと……ずっとずっと思っていた!!!」


 俺は、心からの気持ちを叫んだ。


「……そう…………だったのですか……?」


 リオンの瞳が、わずかに揺らぐ。


「そうだ!!

 この世で一番大切なお前を忘れるなんて、ありえるわけがないだろう?

 信じてくれっ!! リオンっ!!!」


 叫ぶ俺を見て、リオンはとても嬉しそうに微笑んだ。

 昔から知っている、あの可憐な笑顔で。


「では、ここに居る人たち全員を兄様が殺して下さい。

 アリシア以外の人間だって、いつ兄様を盗み取ろうとするか、わかったものではありません。

 兄様以外の人間なんて、生きているだけで邪魔なのです。

 『僕が一番大切』なら、僕のために……皆を殺してくれますよね?」


 そう言って可愛らしく微笑んだリオンが、俺に魔剣を差し出した。


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