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7.許し

 俺の告白を、アリシアは黙って聞いてくれた。

 そして俺が話し終えると静かに口を開いた。


「私はあなたの罪は責めないわ。だって私も同じ罪人だもの」


 彼女はそのまま言葉を続けた。


「あなた達について行ったのだって、最初は……隙を見てお金と魔剣を奪うつもりだったからよ?

 生きていくためには、綺麗事なんて必要ない。そう思っていたわ。

 実際は弟くんがいたから……隙なんかなかったけどね。

 私、あなたが思っているよりたくさんの人を殺しているわ。

 もうこの手は血まみれなの。

 でもヴァティール様は、そんな私を許して下さったわ。

 『可哀想だ』『苦労したな』って。

 それで私は救われた。

 ……あなたがリオンを想うのは当然よ。

 でも、ヴァティール様も気の毒な方なの。

 もう……許してあげられないかしら……?」


 アリシアは伏し目がちにそう言った。


「許すだと!?

 どいつもこいつもヴァティール、ヴァティール!!!

 城を守って死んだリオンの事を思い出しもしないじゃないか!!

 どうして『リオン』じゃいけないんだ!!

 どうして皆『ヴァティール』だけを必要とするんだ!!

 アリシアは知っているだろう? あいつは人間ですらない。

 あの体の中身は、醜い魔獣なんだ!!!」


 パン……という音と共に、俺は頬に痛みを感じた。


「その魔獣を『人間のために』縛ったのは誰よ?

 見なさいこれを!!」


 アリシアは胸元を破った。

 豊かな胸元には決して消えない奴隷の焼印。


 赤黒く変色した奴隷の焼印はそれなりの経年を感じさせる。

 その焼印を押されたとき、アリシアは年端もいかない少女だったことだろう。


「自由だったヴァティール様を捕らえて意に染まないことをさせたのは、人間じゃなかったの!?

 人間がヴァティール様にやったのは、これと同じことよ!!

 私が奴隷の焼印を押されたのは12歳のときだった。

 熱くて痛くて泣き叫んだわ。

 でもそんな痛み、それからの事を思えばなんでもなかった。

 私は商品。人間扱いなんて絶対にされない。

 公爵家に送り込まれてからはもう、毎日が地獄よ。

 わずかな粗相で鞭打たれ、熱があってワインをうまく注げなかった友達は、罰に手足を切られて死んだわ。

 私は家の商売を手伝ってきたから要領も良くて大きな粗相はしなかったけど、失敗した同僚の女の子たちの耳を削がされたり、目をくりぬかされた。

 だって断ったら何をされるかわからないし、結局他の侍女の仕事が増えるだけだもの。

 ……今でも私が手にかけたあの娘たちの悲鳴が耳に残っているわ。

 人が私の所業を知ったら『悪魔』と呼ぶでしょうね。

 でも私だってやりたくてやったわけじゃない。奴隷になんて落とされなければ、誰がそんな事するものか!!!!」


 アリシアは絶叫した。



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