9.人質
リオンを復活させるなら、誰かを犠牲にしなければならない。
死んでも惜しくないのはエリス姫だが、いくら憎い敵国の姫と言えどそんな事は出来ない。
第一、ヴァティールが了承するわけがない。
アリシアも無理だ。
彼女は信頼している俺の仲間だ。
アレス王のエリス以外の血族にも調査を入れたが、すべて条件には当てはまらない。
耐魔性の最も強いであろうアレス国王はすでに初老のうえ、心労のせいか微妙な感じに禿げていた。
皇太子はわりと美形ではあるが、ヴァティールの好みとは程遠い筋骨隆々のゴツイあご割れ青年。
10年前には絶世の美女と評判の高かった第一皇女も、すでに中年にさしかかり激太りしていたため除外。
その他の親族も密かに調査を入れてみたが、使えそうな奴は一人もいない。
もちろん我が国の罪人、そして国外の罪人までも調べて回ったが耐魔性があり、かつヴァティールが気にいるほど美しい体を持つ者は一人もいなかった。
いったい俺はどうすれば良いのだ。
リオンの最後の言葉が、頭の中をぐるぐると回る。
あんな風に殺されて、さぞ怖かったろう。苦しかったろう。
なのに俺はあの時、何一つ助けてやることが出来なかった。リオンが死にゆくのをただ見ているしかなかった。
弟は最後まで悲鳴一つ上げなかった。
悲鳴をあげたら俺が苦しむと……あの優しい弟は、そう思ったに違いない。
忘れない。
俺は絶対に弟を忘れない。
城の皆がリオンを忘れようとしていることは、もはや止めようもない。
しかし、俺だけは忘れない。
俺までがリオンを忘れて現状を良しとしてしまったら、弟は居なかったことになってしまう。
あんなに国のために尽くした弟の全てが消えてしまう。
いったいどうしたら……。
俺は何日も考え込んだ。
それでも答えは出ない。
闇の中を歩いているような気持ちでいた俺に、ふとある考えが浮かんだ。
そうだ……俺は誰も選ばなくていい。
あの体は元々弟のもの。ならばあの魔獣が弟に体を返して眠りにつけば、それですむ話なのだ。
俺は今まで通り、リオンを信じて待てばいい。
あの賢い弟はきっといつか魔獣を出し抜いて蘇る。
しかし俺の甘い考えをあざ笑うかのように、リオンの魂はいつまで待っても復活の兆しを見せなかった。




