表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/451

8.人質

「……っ……ぃ」


「はぁ?」


「使えるわけ……ないだろう!! そんな大勢の罪なき人間を!!」


「なるほど。数が多いことが問題か。では、アリシアを使うか?

 たった一人の犠牲で済むぞ?」


 魔獣がニタリと嗤う。


「アリシアの何代か前に、それなりの魔道士がいたのだろう。多少の耐魔性がある。

 存分に魔力を振るえるほど使い勝手が良いわけではないが、体を壊さぬように魔力を抑えれば、十分使用に耐える。

 オマエの想い人では使うわけにはいかぬから、以前は諦めたが……」


 そういえばヴァティールは昔、アリシアを欲しがったことがあった。


 彼女は魔道士ではないが、空を見て天気を当てる。雲の流れを読むのだと言っていたが、それにしても予想が外れたことはない。


 気性の荒い、前の主人の元でもたった一人、五体満足で生き残っている。

 それが彼女の耐魔性と関係があるのかないのか俺にはわからないが、ヴァティールが言うのなら、その通りなのだろう。


「アリシアは……駄目だ」


 俺は声を搾り出した。


 色々と性格に問題のある彼女だが、それでも他の奴らと違って、彼女はリオンにもずっと気を配ってくれていた。


 弟が『死神』と言われるようになっても、城内の奴らのように態度を変えることはなかったし、今はヴァティールと意気投合しているとはいえ、リオンの誕生日にはいつもプレゼントを持ってきてくれていた。


 売り子の時を除けば、他人にはニコリともしないリオンのために、そこまでしてくれたのは、アリシアと王しかいない。


 そのアリシアを犠牲になんて出来ない。


「……そうかァ。それを聞いて安心した。

 オマエはやはり、アースラとは違う。

 人間なんて、寿命の短い虫みたいなモノだが……それでも美しい蝶を愛でるのは昔から好きだった。

 害虫を駆除したり、足元の虫を知らずに踏むことは確かにあったが、ワタシだって、害のない虫や美しい蝶の羽を自ら好んで引きちぎりたいわけではない」


 魔獣の紅い瞳が、切なげに細められていた。

 

「ワタシはアースラに捕らえられ、大好きだった蝶すら一時は嫌いになった。

 しかし今は違う。

 娘と同じ名を持つアリシアは、今や私の娘同様だ。

 出会ったばかりの頃ならともかく、今更使うなど……オマエに頼まれたとしても命を賭して拒否する。

 あの娘は、本当に苦労してきている。

 死んでしまったワタシの娘の分まで、幸せになって欲しいのだ」 


 言葉を紡ぐ魔獣の瞳は、潤んでいるように見えた。

 魔獣といえど、娘の死はとても悲しいものであったのだろう。


 そして、その名が『アリシア』と同じであったとは……。


 何故、人間であるアリシアやエリスを魔族であるヴァティールがあそこまで可愛がるのか不思議だったが、彼は彼女たちに亡き娘の面影を重ねていたのだろう。


「お前の娘……亡くなっていたのか……」


「ああ、とっくにな。

 私はアリシア――――アッシャを誰より愛していたのに、あの糞アースラの奴がァ……」


 ヴァティールの顔色が変わっていく。

 それとともに温度が上昇していく。


「うえっ!! 溶けてる、床が溶けるから止めろ!!」


「あ? ……ああ、すまない。悪いがこの件は思い出したくも無いんだ。

 今後一切、触れないでくれるか?」


 そう言うと、ヴァティールは去っていった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ