3.人質
「確かにその通りですな。一様に子供といっても、あちらの王にとっての重要度は違うはず。
世継ぎである第一皇子を要求したところで本当は『他の皇子』の方が優れていて、皇太子を見殺しにしたとて一向に構わぬ場合もありますな」
感心したように言うアルフレッド王に、魔獣は首を振った。
「……いや、そういう事じゃなくてどうせなら『一番美しい子供』をもらって来いと言っているのだ。
大国の王族の子供だ。けっこう期待できるぞ?
言っておくが、送られてきた肖像画なんてまったくアテにならないからな。
あれはおべっか使いの宮廷画家が描いたものだ。ちゃんと密偵に調べさせて来い。
ぶっさいくな奴なんかを送り込まれても処置に困るだけだ」
「はあ……そういうものでしょうか……?」
「うむ。ワタシに考えがあるのだ。うまくいけばこの国は何百年も安泰だ」
ヴァティールが意味ありげにニヤリと笑う。
「よくわかりませんが、ヴァティール殿がそうおっしゃるのでしたらそのように致しましょう」
王はあっさりとヴァティールの考えに頷いた。
いいのか、アルフレッド王っ!!!
俺が言うのも何だが、ヴァティールの策は大体が大雑把で穴だらけだぞッ!!
心からそう叫びたかったが、そうすると今度は魔獣がヘソを曲げる。
何百年も生きているはずのヴァティールだが、奴にはリオンのような殊勝な心がけは微塵もない。
ヘソを曲げるとアレス帝国から襲撃を受けても『笑って見てるだけ』という可能性がある。
魔獣は名目上俺のしもべとなっているが、実際は大いに違う。
俺の命令を聞くのは気が向いた時だけで、積極的に俺の役に立とうとすることはまずない。
奴に課せられた絶対的な制約は『俺に危害を加えないこと』『俺の近くに居ること』この二つだけだ。
この国に来る以前、俺は奴と共に一時期を過ごしたことがある。
そして、奴隷にされた故国の人々を助けるために戦った。
しかし作戦は思ったようには上手くはいかず、俺が焼死の危機に追い込まれた時、奴は笑いながら言った。
「お前には不死の呪いがかかっているから、それでもイイじゃないか。安心して死ぬがいい」
今ヴァティールが国を守ってくれているのは、皆が奴の機嫌をとっているからだ。
気分良く過ごしているからにほかならない。
アルフレッド王は、それをよくわかっているのだろう。