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1.人質

 転機は突然やってきた。


「何!? 4人いる皇子・皇女のうち、こちらで選ぶだれか1人を人質として差し出すと言って来ただと?」


 しばらくはこう着状態が続くと思っていたアレス帝国から、和平の申し込みが来たのだ。


 奴らはヴァティールにより、十数万の兵士を失った。

 手塩にかけたであろう魔道士団も、一瞬にして失った。


 小国であるブルボアにあれだけの大軍勢を送り込んでおきながら、たった一人すら帰還させることが叶わなかったのだから、さぞや肝を冷やした事だろう。


 アレス帝国が『小国に惨敗した』という噂は、すでにアルフレッド王により密かに世界中にばらまかれている。


 たった1人すら帰還させることが叶わなかったのであれば、どんな噂を立てるも我が国の思いのままだ。


 また、我が国と同盟を結んでいる数十の国々もそれに協力した。


 ヴァティールの事はもちろん伏せておき、迷信深いアレスの近隣国には『あの帝国は神の怒りに触れ雷に打たれたのだ』とばらまき、違う敵対国には『古の術によって作られたキメラをけしかけられたのだ』と噂を流した。


 もう少し識者の揃っている国や、アレス領土内の人々には『裏切り者がアレス城内にいる。その高官が情報を流したために、ブルボアのような小国の罠にかかり全軍焼き殺されたのだ』と陰からふれて回った。


 アレス帝国の要職についている者は、ある程度正確な情報を持っているだろう。


 しかし『ヴァティール一匹』にやられたなんて、自国民に言えるはずもない。

 かと言って、十数万の兵が一瞬にして消えたことはさすがに完璧に隠せることではない。


 ブルボアに送られてきたのは、全てアレス帝国に籍を置く正規兵。

 それが奴らにとってはあだとなった。


 兵たちにだって家族はいる。

 上は指揮官である貴族、下は下級平民出身の歩兵まで、すべて瞬時に消息を絶ってしまったのだ。

 彼らの親族や友人が騒がないわけが無い。


 正しい情報を持っていない下級将校や一般の兵士はでまかせの情報をあちこちの筋や国から掴み、今頃恐慌状態に陥っていることだろう。


 国の力を削ぐのに大軍勢だけが有効なわけではない。

 やり方によっては、人の口だけで大打撃を与えることができるのだ。


 ブルボアごとき『新興の小国』に歯が立たなかったという噂により、アレス帝国の軍事国家としての権威は地の底に堕ちた。


 帝国が数多く持つ植民地は宗主国の弱体化を知り一斉に主に牙を剥き、そうして自治権を直ちに奪い返すところまではいかずとも、大木の枝葉を蝕んでいく。


 力で領土を広げてきたあの帝国は、恨みもまた深くかっていたのだ。


 アルフレッド王は植民地の蜂起を聞くなり同盟を結んだ国々に手を回して、反乱軍に裏から武器を流すよう依頼した。


 以前ブルボア王国を見捨てた諸王たちは、まるで昔から我が国の盟友であったかのような顔をして、喜んでその案に乗った。


 もうアレス帝国は、以前のような強権を纏える状態ではなくなっていた。

 戦争により獲得した領地の火種を押さえるのさえ、精一杯のありさまであった。


 



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