2.人の心
城壁から身を躍らせ、たった一人でアレス軍に挑んでいったのはリオンだった。
この国を作り上げるときだって、暗殺隊を率いて汚れ仕事を引き受けたのはリオンだった。
なのに、ヴァティールの活躍の前にはそれすら霞んでしまう。
大人しかった俺の弟のことなんて、もう誰も思い出さない。
俺はふと思い立ってリオンの机の引き出しを探った。
人の机をあさるなんて良くないことだが、どうしても探したい物があったのだ。
綺麗な細工で編まれた小さなカゴの中にそれはあった。
リオンが幼い頃、いつも持っていた小さな小さな熊のヌイグルミ。
実際は俺があげたものではなかったが、リオンは俺からのプレゼントと信じていつも持っていた。
この国に来て落ち着いてからはそんなことも段々無くなっていたが、それにまだリオンの温もりが残っているような気がして軽く撫でてみる。
リオンはいつも、どのような気持ちでこのぬいぐるみに心を寄せていたのだろうか……?
俺はリオンの身代わりとしてヌイグルミを棚の上の方に飾った。
急にヴァティールがこの部屋に来たとしても、背の低いあいつからは死角となり、気づかれにくいはずだ。
あいつにはアレを触られたくない。
いや、弟に関するもの全てを触られたくない。
弟の魂は深い眠りについてしまったけれどせめて……せめてこの部屋だけはいつリオンが戻ってきてもいいようにこのままにしておくのだ。
確かにリオンが存在したという証のために。




