8.魔獣ヴァティール
俺の嘘がバレれば、魔獣は『リオンの体』であんなコトやこんなコトをアリシアと……。
そんなことが許せるものかッ!!
無垢なるリオンの純潔を守るためなら『俺がアリシアの婚約者』と言うことにしてヴァティールを誤魔化すぐらい、どんなに不服でもやり遂げてみせるッ!!
俺は『アリシアをどんなに愛しているか』を魔獣に切々と語った。
それはもう、人間、いざとなればどんな嘘八百もつけるものだと自分で感心するぐらいに切々と。
「……へェ。さっきのは冗談だったのに、人間の餓鬼は成長するのが本当に早いなァ?
ちっこくて乳臭かったオマエが、たった三年程で婚約者まで作るのかァ。
まあこの女なら及第点だ。ちょっと年上だが……なに、その程度は障害でもなんでもないさ。
気も利くし、面食いのオマエもこの美しさなら満足だろう。
オマエも良い旦那になれるよう頑張れよ。浮気とかして嫁を泣かすんじゃねえよ!」
ヴァティールは椅子から立ち上がると背伸びをして、俺の肩にポンと手を置いた。
お前は俺の父親かっ!?
しかも何でそんな時だけすっごい良いオヤジ風なんだ。
「わかってくれますの、ヴァティール様!!
やっぱり素敵な方ですわぁ!!
私、エルの良い妻となりますので暖かく見守ってくださいね。優しくて慈悲深いヴァティール様ぁ!!」
魔獣の女にだけはなりたくないらしいアリシアは、日ごろから冴えを見せている口からのでまかせも、一段と磨きがかかっている。
しかしヴァティールは、全く気がつかない。
「うむ、女よ。オマエは中々良い目を持っておる。
エルならかなり馬鹿だが、オマエを裏切ったりしない良い夫となるだろう。
仲良くやりなさい」
ぐはっ! アリシアにも良いパパ風かっ!?
何で……なんでこんなことになっているのだッ……!!
しかも奴はどさくさに紛れて、何気にアリシアの手まで握ってやがる。
リオンの体でそんな事をするんじゃねえッ!!
この、クソ魔獣がッ!!
はらわたが煮えくり返るほどムカツクが、ここで『アリシアとは何でもない』ということがバレたら大変な事になる。
この魔獣は、俺の命令ならすべて聞くというわけではない。むしろほとんど聞かない。
俺は引きつりながらも、ニッコリと笑うしかなかった。




