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7.魔獣ヴァティール

 早く魔獣を別荘に移さねば。

 俺が用意したあの場所は、城からそう離れてはいない。


 ヴァティールは主人たる俺から遠く離れることは出来ないが、俺が命じればこのぐらいの距離なら可能だ。目の前に奴がいさえしなければ俺のイライラも減る。領民の目も欺ける。ヴァティールの機嫌も良好に保てる。


 良いこと尽くしだ。


 また、この距離ならアレス帝国が仕掛けて来たとしてもすぐに呼び戻せる。

 奴は『人間の戦争には干渉しない』と言っていたが『自分の身』にも害が及ぶなら、以前のようにアレス兵を撃退するだろう。


 うまく使って国を守らせ、リオンが戻った時までに平和で美しい国を造り出す。

 俺が考えねばならないのはそれだけだ。


 たとえリオンがここに居なくても、俺は絶対にリオンを忘れたりはしない。

 絶対に……絶対に……!!


「ヴァティール様。私も別荘について行き、引き続きあなた様にお仕えする事になっております。

 何なりとお申し付け下さいね」


 元々お屋敷勤めが長かっただけあって、アリシアが完璧な気遣いと物腰で奴にお辞儀する。


「ふむ。それはありがたい。

 こっちのウルフとかいうむさいのはどうでもよいが、オマエは気が利く上に美しいからな」


 魔獣は機嫌よさそうに答えた。


「あらイヤですわ。ヴァティール様ってばそんな本当のことっ!」


 アリシアは最初の緊張はどこにやら、ノリノリでヴァティール付きの侍女をやっている。


 城の者は俺とヴァティールの事情を知らないが、一応このメンバーとアルフレッド王にだけは俺達の出自を除くほとんどの事を話している。


 この城広しと言えども、ヴァティールの世話兼監視役が務まるのは彼女ぐらいしかいない。

 俺も最初は心配したが、彼女は並みの男より男らしいので、魔獣を怖がりもせずうまくやっている。


 アリシアが言うにはヴァティールに仕えることぐらい『屁』でもないそうだ。

 前の主人の方が1万倍恐ろしかったと言うのだから、よほど酷い主人だったのだろう。


 しかしさすがに、ヴァティールが発した次の言葉には固まった。


「なあエル。ワタシはこの女が気に入った。

 とても美しいし、中々良い体をしている。ワタシにくれないか?」


 その瞬間、しー……んと場が静まり返った。


「何だその反応は。ワタシはそんなに変なことを言ったか?

 たかが侍女の一人や二人、ワタシにくれても良いだろう……?」


 俺に向かってそう言うヴァティールの後ろでは、奴に見えないように手で×を作り、必死で首を振るアリシアの姿が見えた。


 確かにアリシアは美人の上にグラマーで、スタイル抜群だ。

 魔獣が目をつけるのもわかる。


 だが、鉄鋼を編み上げたような図太い神経の持ち主でもやはり『魔獣の女』になるのは嫌らしい。

 

 俺とて気持ちはアリシアと一緒だ。

 今の主人格は魔獣であるが、その体の『本当の持ち主』は可愛いリオンなのだから。


 気高く優しく穢れない……俺の最愛にして至宝である『弟の体』で不埒な事などしてもらっては困る!!!

 そうとも、絶対に困るのだっ!!!


「あ……いやヴァティール、それはちょっと無理だ。申し訳ない」


「何故だ? ……ははん。さてはこの女、お前オマエの想い人なのか?

 オマエの一族は面食いだからなァ」


 ヴァティールがニヤリと哂う。


「えっ!? ……あ、ああそうなんだ!!

 今婚約中で、もう明日にも結婚したいぐらい愛しているんだが……今はそういう場合じゃないから、アレス帝国を打ち破ったら結婚しようと言っているのだっ!!!」


 どちらかと言うと面食いなのは、お前の方だろう!

 ……と心の中で毒付きながらも、俺は必死に取り繕った。




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