10.名前のない少年
「……ではその名をいただきます。
初めてですね、直接プレゼントを僕に下さるのって。
僕が兄様にお会いできるのは、20歳になって正式にクロスⅦの神務を引き継いでからと聞いていおりました。
突然のことでビックリしましたけど、その……嬉しい……です。
これからはまた、時々お会いできますか?」
リオンという名になった少年は、本当に嬉しそうに顔を紅潮させた。
「もちろん!!
ここには近づいちゃ駄目だって父上に言われてたけど……でも、俺……絶対またお前に会いにくるよ!!」
そう言って、弟の小さな手を握る。
しかしリオンは顔の色を青ざめさせた。
「ここに来る許可を……得て……いなかった……のです、か?」
「う、うん。実は」
あまりにリオンが青ざめたので、俺は気まずくなって頭をかいた。
「父様やクロスⅦの許可なく、そんな恐ろしいこと……。
駄目です!! すぐに戻ってください!!」
優しげな容姿に似合わぬ、激しい口調だった。
一瞬たじろぐが、すぐに思い直す。
「でも俺、またお前に会いたいよ。だって血を分けた兄弟なのに。
……お前は? お前は俺に会いたくは無いのか……?」
肩に手を置いてそう問うと、弟王子……リオンはあれほどの剣幕だったのにためらいを見せた。
「それは……僕も、会いたい……です。でもクロスⅦに見つかったら……」
それは異様な怯えようだった。
がたがたと震え、ただでさえ白い顔色は血の気が完全に引いている。
何かヤバイ。そんな感じ。
「クロスⅦに見つからなきゃいいんだろ!?」
迷った末に、リオンはこくんと頷いた。血の気が引いたまま。
「……それなら。
ここにはクロスⅦ以外誰も来ません。食事もあの方が受け取って持ってきます。
しかしこの時間帯なら……昼食を取ってから3時間、クロスⅦは神に祈りを捧げるためにこの部屋から続く儀式の間に篭ります。
その間なら、おそらく兄様がいらしても気付くことはないでしょう。
でも……」
「会いにくるよ。絶対。絶対にだ!!」
そういって抱きしめると、今度は何も言わずにリオンもぎゅっと抱きしめ返してくれた。